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身の回りの出来事系エッセイ−54

新聞勧誘員からもらったカード

2002年5月16日執筆

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 この間、岡田純菜のビデオでも見てみるかと思っていると、30年以上購読しているにもかかわらず洗剤しか持ってきたことのない読売新聞の人がやって来た。
「こんにちは。あ、旦那さん?」
「いや、息子ですけど」
「あ、息子さんか。どーもどーも、こんにちは」
 50歳前後の小柄なおじさんは、愛想のいい笑みを浮かべて少し開いたドアの縁に手を掛けた。
「えーっとね、購読契約のことなんだけどさ、ちょっと早いんだけどどうかなあと思ってるんだけど……」
「契約ですか」
 いつも、朝刊の配達もしてくれる60歳ぐらいのおばさんが契約更新に来るのでちょっと怪しんだが、胸には正規販売員の証明カードがぶら下がっているし、まあ、大丈夫だろうと思って契約を継続することにした。
「あ、継続してくれる? あー、どうもほんとにありがとうございます。えっとね、じゃあ皆さんに大好評の洗剤は後で持って来させますから。でね、これこれ、これを差し上げます」
 おじさんは胸のポケットからカードを一枚取り出し、ミリオネアのみのもんたのごとく、眼球を動かさずに私を見つめた。
「これ」
 おじさんがゆっくりと口を開いて、じらすような口調で続けた。
「巨人の」
「……」
「二軍戦の」
「……」
「招待券!」
「……へえ」
「ただの招待券じゃないよ、年間パスですよ!」
「ふうん……そうなんですか」
 私があまり感動しないのにカチンと来たのか、おじさんは興奮した口調でこうまくし立てた。
「あのね、これは本当に貴重なものなの。もう滅多に手に入らない。他のお客さんにくれくれ言われるんだけど、なっかなかなくてさ、あげられないんだよ。でもね、今日は特別、これ差し上げますから。旦那さんに使ってもらって下さい」
 読売新聞の人が洗剤以外のものを持って来るのは初めてだ。そんなに貴重なものをくれるなんて、やはり30年以上契約していると違うんだなぁと思いつつ、どうもとお礼を言ってドアを閉めた。

 数日後、定年退職して暇な父親(長嶋ファンで風邪気味)が、
「おい巨人の二軍ってどこで試合するんだ?」
 と関根勤が真似する大滝秀治のような声で聞いてきた。
「さあ、多摩川じゃないの。ジャイアンツ球場とかいう所」
「じゃないのっておまえいい加減だな。それ、ほんとに多摩川にあるのか?」
「んー、あると思うけどね」
「……そうか。じゃあ行ってみるかな」
 父親は持っていた年間パスをひっくり返して注意書きを読むと、大事そうに財布に入れて出掛けていった。

 夜、父親が戻ってきて言った。

「あれ使えねえってよ」
「え? そうなの」
「入り口の所で『あんたのは駄目ですね』なんて言われて止められちゃったよ。だから、700円払って見てきた。二軍戦って結構するんだなぁ。700円かあ」
 父親がぶつぶつ言いながらポケットから出した年間パスを見ると、

 GIANTS LIVE 2000

 と書いてあった。

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