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第十五回 業界用語

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 執筆を進めていく上で、未知の用語やなるほどと思うようなことにいくつも出会った。
 例えば「差別用語」。
 ある日、いつも通り日立のパソコンに向かって執筆を進めていた私は、Kさんにこう言われた。
「工藤君、さっきもらった原稿、内容は問題ないんだけど文章的にまずいところがあるから直してくれるかな」
「あ、はい」
 私がキーボードから手を離すと、Kさんはプリントアウトした原稿を見ながら言った。
「えーとね、フミ(金田一少年の従姉妹)のやつで『本屋』っていうところあるじゃん」
「はい」
「この『なになに屋』っていうのは使っちゃいけない言葉なんだよね」
「え、そうなんですか?」
 この時はかなり驚いた。
 差別用語には通じていたつもりだったが、〜屋という呼び方もそうだとは……。しかし、どの辺が問題なのだろう。考えていた私に、Kさんはわかりやすく説明してくれた。
「『〜屋』っていうのは、親しみを込める意味で使われることもあるけど、『〜屋ごときが』とか『〜屋の分際で』っていう悪い言い方で使われることもあるよね。だから、差別用語っていうことになっているんだよ」
「はぁ……なるほど」
 他の本では結構見るので絶対的な差別用語というわけではないようだが、私はこの時以来、使わないようにしている。

 意味不明な言葉もいくつかあった。一番わからなかったのが「アンカー」である。
 本を書いている最中、週刊少年マガジンの編集者である都丸氏(MMRでお馴染み)や、金田一を描いているさとうふみや氏、原作を担当していた(なぜおりてしまったのか、それは私にもわかりません)金成陽三郎氏などにお会いする機会があったが、そういう人たちと会うたびに、本の担当である講談社のAさん(エッセイ&日記に出てくる編集者様)は私のことを、
「えーと、彼がアンカーの工藤君です」
 と紹介するのだ。
 その横で「あ、どうも、初めまして。工藤と申します」と頭を下げながら(アンカーってなに?)とずっと思っていた。
 そんな私の不思議そうな顔を見て、またまたKさんが教えてくれた。
「アンカーっていうのは、実際に本の文章を書く人のことを言うんだよ。編集者とかライターが持ってきた記事を最後にまとめるっていうことで、アンカーっていうんだ」
「はぁ……なるほど」

 その次にわからなかったのが「開く」だ。
 ある日、私の原稿を見ながらKさんがぶつぶつと独り言を唱え始めた。
「うーん、ここは開かないと駄目だな」
(……なに、開くって? ねー、なに?)
 連日連夜の重労働で疲労困憊していた私に、この謎の言葉は重くのしかかった。
 その後間もなく、開くとは、漢字を平仮名にするという意味であることが判明した。
 例えば、

そう言った後、彼奴は鼻を触りながら馬鹿にするような目で俺を見た。

 という文章があったとしよう。
 この文章にある漢字を児童向けに開くとしたら、

そうったあとあいつは鼻をさわりながらバカにするような目でおれを見た。

 となる。

 このようなことを毎日学んでいきながら、私は着実に原稿を仕上げていった。

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