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第16回目の法則

秘密の共有を拒絶されたらまったく脈なし

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シチュエーション

 共に25歳の男女。二人は同じ会社の同じ部署に勤めている同期である。
 この部署では、社内恋愛すると、そのまま結婚するという伝説があり、実際に最近も二組のカップルが社内恋愛を実らせた。男としては、この伝説に乗って女をものにしようという気持ちが強いが、誘ってもなかなか応じない彼女に苛立つ。
 だが、10月10日体育の日。箱根までドライブにいかないかという男の誘いに、女が珍しく乗ってきて、二人は箱根へと出掛けた……


「いい天気だねー」

「そうだねー」

「ちょっとその辺に車停めて、外出ようか」

「うん、そうしよう!」

 男、車を駐車場に停める。


「わぁ、空気が美味しいね。なんか、会社って空気が悪いからさ、こういう新鮮な空気を吸うと、ほんと気分いいよ」

「あー、田中さん(二人の上司)とか煙草よく吸うから、空気汚れているもんね」

「そうそう。あたし、あの人の前歩くと息止めてるよ。ヤニ臭いから(笑)」

「ははは」←あんまり笑うと、後が怖い。

 話題が完結したため、無言状態が1分30秒続く


「あのさ」←咳払いをした後

「うん?」←のびをしていた

「あの……大したもんじゃないんだけど」

「うん」←表情が固まる

「……受け取ってほしいものがあるんだ」

「……」←表情、固まったまま

「……」←なんか言ってくれないと、何も言えない

「え、なになにー?」←突然、繕ったように明るく

「ちょっと待ってて」←車に戻り、後部座席から紙袋を持ってくる

「えー、なんだろ?」

「……あのさ、前に欲しいって言ってたじゃん。だから」←紙袋を渡す

「開けてもいい?」←紙袋と男の顔を交互に見ながら

「うん」

「あ……! これってラクロス(店名)のクッキー!?」

「うん」←得意げに。ラクロスのクッキーは、東京では買えず、長野県の直営店でしか手に入らない。ゆえに彼は、なんと長野まで行って買ってきたのだ。

「もしかして、長野まで行ってくれたのー!?」

「ああ」←(見たか、俺のおまえに対する愛情の深さを!)とアピール

「うそー、嬉しいよぉ」

「ほら、水谷さん(彼女の名前)って、この間、誕生日だったじゃん。それで、その時はちゃんとしたプレゼント渡せなかったからさ」←かなり得意げ

「うそー……。ほんと、ありがとう。ここのクッキー、本当に美味しいから嬉しい〜!」

「……それじゃ、少し歩こうか」←自分の手に落ちたことを確信

「うん!」

 愛の力とは不思議なものである。どんなに無謀なことでさえ、彼女が喜んでくれればとやり遂げてしまうのだ。例えば、今回の例でいけば、好きな彼女が大好きなクッキーを、わざわざ長野まで行って買ってくるという、男性の常軌を逸脱する行動がまさにそうだろう。
 しかし、これがプラスに働けばそのままラブラブという可能性もあるのだが、これがマイナスに働いた場合、女性の常套文句の一つである『気持ちが重くて受け止められない』か、『なんか怖いよ……』と言って泣き出すということはよくある。
 だが、長けた女性はここからの行動がうまい。何も気持ちを真正面から受け止める必要はないのだ。とにかく、下の、「箱根行きの翌日」を読んでいただこう。

 箱根へ行った翌日。前日は、その後、おみやげ屋に寄って、彼女にぬいぐるみを買ってあげた男。二人だけの共有の秘密(箱根へ二人でドライブ、長野まで行ってクッキーを買ってきた、ぬいぐるみを買ってあげた)を初めて持つことが出来、彼としては彼女との親密度が深まったと考え、万全の手応えを感じながら出社した。


「ふんふんふ〜♪」←鼻歌を歌いながら、タイムカードを押す
後輩社員
「あれ? 五十嵐さん、ご機嫌ですね」

「ん? いや、そんなことないよ」
後輩社員
「俺は昨日、休日だというのに一人で映画見てましたよ(笑)」

「ははは、寂しいね」←余裕の言い回し
後輩社員
「五十嵐さんはどうなんすかー? 彼女とデートとか?」

「いや、彼女なんて……まあ、うーん」←言いたくて仕方がない
後輩社員
「あれあれー? 怪しいなぁ?」

「いや、別に(笑)」←でも秘密にして優越感を持ちたい

 二人、部署へ行くと、なにやら男女の社員が集まっている


「みんな、どうしたの?」
社員A
「あ、五十嵐さん、ごちそうさまー!

「……」←悪い予感

「あ、五十嵐さん。昨日楽しかったねー」←さわやかに

「あ……うん」

「なんかさ、あたし一人じゃもらったクッキーとても食べられそうもないから、会社へ持ってきちゃった

「……」
社員B
「五十嵐さん、さすがに長野で買ってきただけあって、これうまいっス」 

「……」
社員B
「でも、箱根へドライブなんていいよねー。あたしも行きたかったなぁ」

「そうだね。今度はみんなで行こうよ
社員C
「だけど、五十嵐さんと水谷さんの組み合わせっていうのも結構意外ですよね」

「うん、たまたま二人とも暇だったからさ。……あ、五十嵐さん、昨日のぬいぐるみ、近所の女の子にあげたら喜んでたよ」

「……」
社員D
「ねーねー、今度はあたしにもなんか買ってよー」

「……」

 こうして、二人だけの思い出はみんなの思い出へと変わっていくのであった……。

 社内恋愛に限らず、ある程度人数が限られたグループで恋愛しているカップル(うまく行っているカップル)というのは、自分たちの行動をすべて秘密にすることで、余計に一体感を深めようとする傾向がある。
 よって、いきなり婚約を発表したり、結婚を発表したりで驚かせてくれるし、また、よく聞いてみると、「実はあの飲み会の後、彼女の携帯に電話してデートに誘ったのがきっかけだった」だの、「忘年会の後、二人でバラバラに帰ったと見せかけて、実はその後にベイブリッジへ行った」だの、二人だけの秘密がぞろぞろ出てくる。
 このように、二人だけの秘密というのは、初期恋愛段階では、自己開示(自分の欠点や秘密を打ち明ける)と共に重要なものであるが、どちらかが相手に気のない場合、そんなものを持たされても迷惑な話だし、後でそれがばれておかしなことになっても困るということで、早めに二人の思い出をオープン化し、みんなの思い出にして、出来事の重要性を低くする(つまり、みんなに喋っても問題ないほど軽い出来事だし、その程度の間柄なんだよとアピールする)という策が取られる。
 もらったプレゼントを周囲にばらまくのも、「好意の分散」ということで、自分が受けたプレッシャーを少しでも軽くさせるために行うものだ。
 まあ、はっきり書くと、こういう仕打ちをされる男は、女からすると付き合う付き合わないを考える以前に、なんとも思えない人もしくは他人から見てなにかあると思われたくない人であると言えるだろう。

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