メールフレンド 第140回
Subject: 少し酔ってる……
Date: Wed, 13 Dec 2000 00:08:41 +0900
From: "鈴木 冬也" <AYGH12563@bubble.ne.jp>
To: "めぐ" <m-megu@planet.thi.ne.jp>
こんばんは、めぐ。
不思議なもんだね。犯人からのメールは絶対に見たくないけ
ど、みんな無事かどうか知りたくて、家に帰ると真っ先にネッ
トにつないでしまう。おれっちの所に誰かからメールが届いて
いるとほっとする。
不思議っていうのは他にもあって……おれっちも含めて、ど
うしてみんなネットに繋いでいるんだろうって……。こんなに
恐ろしい思いをしながらやめたのはきょうこだけ。なんで、他
のみんなはネットから離れないんだろう。
仕事をしている時は、犯人のことを忘れられるんだ。なんて
言うか、すごく遠い存在に思える。でも、家に帰ってネットに
繋いだ途端、勝手にドアを開けてくるような、ベランダに潜ん
でこっちをじっと見ているような、いつの間にか背後に立って
じっと僕を観察しているような、そんな気がしてくる。
だから、おれっちがネットに繋がなければ、いや、メーリン
グリストそのものを完全になくしてしまえば殺人も行われない
ような……そんな気がする。
はじめてメール交換する相手を見つけた時、本当に嬉しかっ
たし、不思議だった。本名も性別もわからない相手が自分の世
界に入ってきて、あれこれ話してくれる。恋愛のこととか仕事
の悩みとか。おれっちも、自分で驚くぐらい簡単に気持ちをオ
ープンに出来た。自分のことをなんでも話せるって、なんて素
晴らしいんだろう、なんて気持ちいいんだろうって思った。そ
して、はっきり言って、この人となら本当の親友になれるって
思ったよ。
でも、たまたま仕事が忙しくなってメールを送れないでいる
うちにあっさりと自然消滅……。
友情ごっこだった。自分の気持ちをオープンに出来たのは、
単に相手が知らない人間、一生会うことのない人間だったから
なんだよね……。神父を親友と勘違いしたようなもん……。ま
ぬけだよね、ほんとに……。
だけど、その友情ごっこがあまりにも心地よかったから、ま
た新しい遊び相手を見つけるためにメーリングリストを開設し
たのかもしれない……。
みんな、その友情ごっこに縛られているんだとしたら、誰か
が解放しなくちゃいけないと思う。真のとは言えない友達関係
に縛られて、命を失うなんていうことがあっちゃいけないんだ。
おれっちがメーリングリストを閉じれば、友情ごっこも終わ
りになる。そうすればもう誰も傷つかなくて済む。犯人探しな
んて警察に任せておけばいいんだ。みんなが疑心暗鬼になって、
メーリングリストの中で犯人をさがすなんていうことをする必
要はないんだ
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