第1問目を知識で、第2問目を理論でクリアした私は、完全に有頂天になっていた。クイズというのは、基本的にこの二つが揃えばすべて正解出来る。運もある程度必要だが、それは問題をクリアしていれば後から付いてくるものだ。
(やっぱ、今年はなんか違うと思ってたよ)
この段階で、バレエダンサーの熊川哲也に続き、「違い」を知っている男二人目になったと思われる。
ここからのクイズ進行は極めて早く、すぐに第三問目へ突入した。
「さあ、3問目、いくぞっ!」
アメリカの入国管理局で使うスタンプに、かつて自由の女神がデザインされたことがある。○か×か。
(……)
問題は出た。しかし、問題に対して、ある「問題」が発生した。
問題の意味がわからないのだ。
(アメリカの入国管理局が使うスタンプっていうのはなんだ?)
おそらく、アメリカへ旅行に行ったとき、空港とかで職員がパスポートに打ち付けるスタンプのことを言っているんだろうが、未だかつて外国へ行ったことのない私の頭の中には、そのスタンプがどういうものなのかという、はっきりとしたイメージがまったく浮かんでこない。ようは、クイズを解くのにもっとも重要な「知識」が欠けているのだ。
(スタンプなぁ……スタンプっていったら……)
私は懸命に、テレビや本で見かけるスタンプのデザインを思い浮かべた。
(白い犬とか……)
それはおはようスパンクだ。
(なんか、楕円形なんだよな、パップラドンカルメみたいな)
私の頭の中に、横幅の広い楕円が思い浮かぶ。
(で、線が2本ぐらい入っていて、その間に日付があったような……)
ここまではよかった。しかし、次で大きく栄光の道を外れていった。
(あ、もしかしたら、コンセプト的にJRの駅にあるスタンプと同じか!!)
イメージがすっかり記念スタンプになってしまったのだ。
だが、一度思い込むと、JRの記念スタンプも、政府の業務に使われるスタンプも同じに思えてくるから不思議だ。
(前にどっかの観光地の駅で、記念スタンプに建物みたいのが入っていたのを見たことがあるぞ。ということは、アメリカのスタンプに自由の女神のデザインが使われていたとしても、まったくおかしくはないな。……正解は○だ!)
考える時間はわずかに20秒。私は○-3の場所に穴を開けるため、厚紙を見た。
(……)
しかし、ここでふと我に返った。
1問目○、2問目○。そして3問目も○となると、3問連続で○ということになる。ウルトラクイズ史上、○が3回続いた例などあっただろうか。
(×じゃないかな、やっぱ……)
時間はない。福留さんが残り5秒と叫んでいる。○なのか×なのか!? どうすればいいのか。
「ホールドアップ!」
(よし、最初の意思を貫き通して○!!)
寸前でかなり迷ったが、私はすぐに○に穴を開け、厚紙の○面をグラウンドに向けた。こういう時は、得てして最初の気持ちに従うのがベストの選択である。
「さあ、それじゃ正解を見てみよう。正解はこれっ!」
この時、初めて落胆の声が耳に入った。それまでは歓喜の声しか入って来なかったことから考えて、人間とは置かれた立場によって、音を聞き分けているということがよくわかった。
(ここで駄目かぁ……)
そんな気はちょっとしていた。思わず天を仰ぎ、そして椅子に腰掛けた。
(……でも、まあいいか)
結果は悲しかったが、アメリカ横断ウルトラクイズ3回目の挑戦にして、初めて第1問目を突破したのだ。それだけでもよかったではないか。
その後、敗者復活まで見届けた私は、東京ドームを後にした。今まで参加した過去の大会より、一番盛り上がった素晴らしい第一次予選ではなかったかと思われる。
その日の昼、
新宿で食べたパスタは少し硬かった。
-完-
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