昔の作品系エッセイ-13

最近のウインナー君 後編

1997年11月26日~1999年1月22日執筆


4月9日

 先日、いつものように、ウインナー君を散歩(なわばり巡回)させた。
彼は真っ先に、お気に入りの「机と壁の間に出来た隙間」に飛び込もうと、姿勢を低くしてターーーーッと走る。まるで、台所で見かけたゴキブリが、逃走経路を事前に決めていたかのごとく、一直線に隙間に入っていくかのような迷いのない動きだ。
 しかし、ウインナー君は壁にぶつかった。
(残念でした)
 ウインナー君に向かって、そう唱える私。
 隙間に入ること自体は別に構わないのだが、一度入るとなかなか出てこないのが問題で、今回から隙間を封鎖することにしたのだ。
 封鎖に使われたのは、ウインナー君がまったく食べないために有り余っているハムスターフードの箱(高さ25センチ)。
 ウインナー君は、箱をがりがりかきながら、背伸びをしてキョロキョロ辺りを見回す。しかし、どのような方法を使おうとも、隙間にぴったりとはまりこんだ箱を越えて、向こうにいくことは出来ない。
 見ていて可哀想な気もしたが、馬の記憶は1年しか持たないと言うから、ハムスターだったら3日ぐらいでなわばりのことを忘れるだろうと、心を鬼にして隙間封鎖を続行した。
 しばらくして、ウインナー君は納得いかないながらも諦めてくれたようで、他のなわばりをのそのそと巡回し始めた。
(悪いなー、こっちの都合で)
 そう思いながらも、やれやれとウインナー君を見る私。
 しかし。
「あ」
 ウインナー君が、再び隙間に向かって猛ダッシュをかけた。
 しかし、またもや箱にぶつかるウインナー君。どうしても箱の向こう側に行きたいようで、懸命に箱をがりがりかく。
「無理だって」
 そう突っ込んだ私であったが、次の瞬間、信じられない光景を目撃した。
「お?」
 まず彼は、隙間の近くにあるカーテンに手を掛け、するすると登っていった。
 次に、そのカーテンから、箱のすぐ近くの壁にあるコンセントを見て、そこに刺さっているプラグに飛び移った(床からの高さ20センチ)。
 そして、そこから箱に手を掛け、箱を越えてしまったのである。

 ぼとっ←ウインナー君が箱を越えて、飛び降りた音。

「……」

 バキッバキッ←箱の向こうで、ひまわりの種を食べている音

「……そこまでして行くか? 普通」

 そう思ったが、次の日から、箱はどけてウインナー君の自主性に任せることにした。
 ここまでやられたらしょうがない。

4月23日

 最近、ウインナー君の行動に不審な点が見られるようになってきた。
 いつものように、散歩の時間、ゲージの中でひまわりの種を食べている彼が、おもむろに立ち上がり、持っている種をぼとっと落としたかと思うと、もの凄い勢いで机の下に隠れてしまうのである。
 このダッシュがどれだけ凄いかというと、警視庁24時などに出てくる「暴走族一斉取り締まりコーナー」で、それまでは警察を散々挑発しておきながら、網を見つけると、途端にバイクを乗り捨てて、蜘蛛の子を散らすように逃亡を図る、暴走族の皆様の逃げ足に、かなり近いものがある。
(なんか地震でも予知しての行動なのかなぁ)
 そう思い、逃げたウインナー君を掴まえてゲージに戻していたのだが、今日、原因がやっとわかった。

 朝、いつものように目覚めると、ベランダで猫の鳴き声がする。数日前から、気づいてはいたのだが、たまたま遊びに来てるだけだろうと無視していた。
 今日、改めて窓から見てみると、母親猫1匹がどーんと座って、ひなたぼっこをしている周りを、黒いちっちゃな子猫4匹が遊んでいる様子が見える。私の部屋の前のベランダはうちの粗大ごみ置き場になっていて、逆さのビールケースの上に、ビニールシートなどがかぶさっているのだが、どうやら、母猫がそこで子供を産んだらしい。ウインナー君はその猫たちの気配を察知して怯えていたのだ。
(へー、こんなところで子供産んだのかぁ)
「仔猫物語」で、段ボール箱に乗って川を流されているチャトランを見ても、
(撮影中にチャトラン役の猫が何匹も死んだって本当かなあ)というような疑問しか湧かなかったが、さすがに自然の子猫を見ると愛おしい。母親がどこか行くときは、その後ろを4匹がついていき、私が窓から覗くと子猫たちをビールケースの中に隠し、私を威嚇する母猫。そんな姿に、感動すら覚える。

 しかし、困ったことが一つ。
 25日に、ベランダで工事をするのだ。なんでも窓を全面的に改装するらしく、ドリルやらなんやらで、壁に穴を開けたりするらしい。当然、外にあるビールケースなどは片づけなければならないだろう。
 だが、そうなると猫たちはどうすればいいのだろうか。今日、観察していたところでは、昼になると出かけて、夕方になると帰ってくるらしいが、その間に家がなくなっているというのもあれだし、子猫たちはまだ小さくて、野ざらしにするのも可哀想だ。
 まさか家に入れるわけにもいかないし、誰かに引き取ってもらうというのも難しい。
 可愛い、可哀想というだけじゃどうにも出来ないことはわかっているのだが、せっかく安住の地を見つけた1匹の母猫と4匹の子猫。なんとかしてやりたい。

7月13日

「ひょっとして、もう死んでいるのでは?」という噂のあるウインナー君だが、相変わらず元気である。
 高温多湿(案外涼しい?)の押入に閉じこめられていながら、いつものように、ひまわりの種をバリバリ食べ、たまに遠くを見つめている彼だが、最近、奇妙な行動を取り始めた。

 夜中の3時過ぎ、さて寝ようかと電気を消し目を瞑ると、ウインナー君のいる押入から、

 ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ

 という、金属同士がぶつかるような音が聞こえてくる。
(なんだ、この音?)
 そう思いながら、起きて電気をつけ、かごの中のウインナー君を見ると、何やら一心不乱にゲージの金属を噛んでいる。いつもは私がかごを見ると、鼻を上向きにしながらにじり寄ってくるウインナー君であるが、今回は私にはまったく気付かず、とにかく、

 ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ

 と音を立てながら檻を噛んでいる。その様子は以前コンビニで見かけた、「投稿写真」をかぶりつくように読んでいた小学生のように必死なものだった。
「そういや、昔飼っていたハムスターも檻を噛んでたな」
 と思い、本棚に置いてある“ハムスターの上手な育て方”を見ると、

「ハムスターは、なわばりを点検したいがために、外に出ようとして檻を噛むことがある。ハムスターたちは、噛み続けていればいつか外に出られると信じている」

 と書いてあった。
「ああ、最近、散歩させてなかったもんな」
 そう反省をし、今日、ようやく散歩させてあげることが出来た。
 ゲージを開けると、ウインナー君はしばらく辺りをきょろきょろした後、軽い足取りで壁と机の隙間に潜り込んでいった。

 だが、この後、いつまでも出てこないため、釣り竿で突っついて檻へ連れ戻すこととなった。

 散歩の時は、いつもこの繰り返しだ。

7月23日

 最近、ウインナー君と極力、目を合わさないようにしている。別にウインナー君のことが嫌いになったわけではない。彼と目を合わせると面倒なことになるからだ。
 例えば部屋に掃除機でもかけようとした時、(ウインナー君が寝ていたら悪いな)と思って押入にいる彼を覗くのだが、その時ウインナー君は、起きているとすぐに私の気配を察し、彼自身、どこを向いていようが鼻を上向きにして私と目を合わせてくる。まあ、ここまではいい。しかしこの後、

(なになに、え、なに!? もしかしたら散歩させてくれんの!? ねー!?)

 という雰囲気をふんだんに放出しながら近づいてくるのだ。これが問題なのである。
 こっちとしては、ウインナー君を散歩させると、結局、隙間に入り込んだ彼を釣り竿で突っついて出さなければならず、面倒なのであまり外には出したくない。
 しかし、興奮の余り瞳孔が拡散している彼の目を見ると(もともと拡散している可能性もあるが)、どうしても情を感じてしまい、出さざるを得ない羽目になるのだ。
 そんなわけで、目が合うと、右手で自分の顔を隠してさっさと立ち去るようにしている。

 しかし、決して長いとは言えない寿命を持つ彼に対して、この所業は確かに可愛そうかもしれない。これからは、せめて3日に1度は自由に散歩させてやりたいと思う。

8月4日

 最近、ウインナー君は机の裏で何かをやっている。場所が場所だけに覗いて見ることが出来ず、何をやっているのかは不明なのだが、彼がなわばり点検のため机の裏にはいると、

 バリガリベリベリガリガリガリ

 という妙な音が聞こえてくる。
(爪でも研いでんのかなぁ)
 と思い、まあ特に害はないので放っておいたのだが、つい先日、いつものようにバリバリ音がした音、

 バギバキバキバキ!!!!

 というもの凄い音がした。そして何かすっきりしたような静寂。今までうるさかったので、まさに「し~ん」という感じだった。生じたギャップは、どこかしら「やることをやり終えた満足感」のようなものを伝えてくれた。いったい、ウインナー君はそれまで何をやっていて、この時、何をやり終えたのだろうか。よくわからないだけに不気味だが、今日もウインナー君は元気よく、机の裏へと出掛けていった。

 いつの日か、机を引っ張り出して裏を見てみたい。

8月28日

 最近、ウインナー君の調子がいい。8月の中旬頃は「死んだ?」と思わせるほど1日中ぐったりと寝ていた彼だが、最近は朝と夕方、元気に回し車を廻している。
 そんな彼は最近、散歩(なわばり点検)のルートを変えた。今までは、ティッシュボックスから勝手にティッシュを引きちぎり(巣材にしているらしい)、それを頬袋にねじ込み、コブラのような顔をして机の下やら裏やらに突入していたのだが(別荘建設のため)、何を思ったのか、机とは反対方向の「押し入れ」に突っ走るようになったのだ。
 確かに数ヶ月前、押し入れの中をなわばりにしていた時期があったが、しばらく散歩しないうちに存在を忘れたらしく、机にしか行かなくなっていた。
(なんで、急に思い出したんだろうなぁ)
 キーボードを叩きながら、布団の上を疾走しているウインナー君を見る。ハムスターの記憶など大したことないと思ったが、数ヶ月前のなわばりを思い出したということで、その評価を改めなければならないようだ。
(ん、なんだ?)
 ふと、押し入れに向かったウインナー君を見ると、ファミコンのディスクシステムと押し入れの壁に出来た隙間に頭を突っ込み、バタバタしている。どうにか、この隙間に入りたいようで、体をねじったり、逆さになったり、とにかく頭を突っ込みながらいろんなことをやっている。
 しかし、絶対に通れない。なぜなら、私が隙間に物を詰めて封をしているからだ。

 そんなこととはつゆ知らず、ウインナー君は本当に一生懸命通ろうとしている。
 そういう様子を見ていると、(きっと彼にとって、今一番大事なのはメスと交尾することじゃなくて、なわばりを点検することなんだろうな……)と思い、男としてしんみりとした気持ちになった。
 このまま、彼に「メス」を経験させず、なわばり点検と回し車廻しに明け暮れさせ、寿命を迎えさせていいものなのか……。

10月9日

 最近、ウインナー君はトイレの位置を間違えている。
 先日、いつものように餌を取り換えようと、24時間ぶりに押し入れからケージを出したところ、妙な異臭が漂ってきた。しかも、ウインナー君は死んでいるかのようにぐったり状態。
(あれ、どうしたのかな?)
 とりあえず、ケージを床に置いて中を見ると、原因がすぐにわかった。ウインナー君が、砂の入っているトイレにではなく、敷いてあるわらの所で小用を足しており、そのため、その部分にカビが生えていたのである。まさに、最悪の衛生状況。昨日までこの状況がわからなかったのは、どうやらウインナー君が、わらを上から被せていたかららしかった(多分、偶然)。

「おいおい、トイレの位置間違えるなよ」
 私はそう言いながら、ケージを全部水洗いしようと、ウインナー君を取り出そうとした。いつもならそのまま散歩させるのだが、あいにくとこれから寝るところ。今、散歩に出てしまうと非常に困る。
「ん?」
 ところが、なぜか逃走するウインナー君。最近は結構従順だったのに、なぜここに来てのその行動なのか。
「おい、ちょっと待て! おい!」
 私は体を懸命倒しながら、机と壁の隙間へ逃げ込もうとするウインナー君を掴んだ。

 その瞬間。

 かぷっ

「いててててててててててて!!」
 まさに、飼いハムに手を噛まれるとはこのことであろう。彼は、数ヶ月ぶりに私の指に歯を立てた。
「なんなんだよ、おまえは。トイレ間違えておきながら、その始末をしてやろうという飼い主を噛むっていうのはどういうことだよ?」
 私の言葉も空しく、ウインナー君は澄ました顔で毛づくろいを始めた。

 1日のうち、23時間55分押し入れに閉じ込められているハムスター。彼が本格的な反乱を起こすのは、そう遠くない日のことかもしれない。

10月19日

 最近、夜の10時頃になるとウインナー君は「キュウキュウ」と鳴く。
 はじめ、回し車をいじっている音だと思ったのだが、遠目に見てもその様子はないのだ。
(あれー、なんか病気かなぁ)
 と思い、近づいて横になっているウインナー君を見ると、うつろな目で遠いところを見ていた。ぼてーっと横になっている姿といい、呼吸で膨れるお腹の具合といい、見た目はどう見ても寝ているのだが、目はしっかりと開いているので、なんだかよくわからない。
「おーい」
 私はとりあえず呼びかけてみた。1年一緒に生活してみてわかったのだが、彼はわりと賢い(最初はそうは思えなかったが)。ボトルの水を換え、ケージに装着した時、まったく違うところを向いていても、こちらが指で合図をしてやると、ちゃんとボトルの所へ行って水を飲むし、言葉にもわりと反応して「おーい」や「餌だぞ」と言われるととりあえずこちらを向くことになっている。
「おーい、どうしたー?」
「キュウキュウ」
「具合悪いのか?」
「キュウキュウ」
 ウインナー君は、相変わらず遠くを見て鳴いている。
 その後、ケージから出して体を触ってみたが腫瘍などは出来ていないし、毛づやもいいので具合が悪くて鳴いているということではなさそうだ。

 今日も彼はやっぱり鳴いていた。
 なぜだろう?

11月9日

 最近、ウインナー君は頭が禿げてきた。
 夜、ケージから出ようと金属の棒をガチガチと噛んでいるとき、頭髪(?)がこすれ、抜けてしまっているらしい。
 そんなわけでいまいち可愛げがなく、正面から見ると妙な迫力がある。感じとしては、サッカーフランス代表のジダンに近いかもしれない。

 そんな彼は、日増しに食欲が旺盛になってきた。ひまわりの種をバキバキ食べるのは前からなのだが、乾燥コーンやよくわからない種の類をも何かに取りつかれたように食っている。多分、冬に向けて脂肪を蓄えようということなのだと思うが、こんなに食べて大丈夫なのだろうか?

11月21日

 最近、朝晩寒くなってきたので、去年と同様、ケージに襦袢をかけている。
 それに伴い、常時姿が見えないということで、ウインナー君に対する飼い主としての気持ち(愛情)が一歩減退し、1日5分は散歩に出していたところを、現在、2日で5分に変えてしまった。
 当然、餌&水の交換も2日に1回ということになっているが、量は充分やっているとは言え、小動物を二日ぶりに見るというのはおっかない。
「おーい、生きてるかー?」
 が合い言葉である。とても、正常な飼い主とペットの関係を築いているとは思えない。

 ところが、2日ぶりに見るウインナー君は、いつも活き活きとしている。回し車を廻すのは面倒なのかなんなのかやらなくなってしまったのだが、毛繕いを頻繁にしており、襦袢をめくると、頭の毛を手でくるくる撫でていたり、足の毛を一生懸命なめている。そのため、毛並みは夏の時よりもつやつやしており、心なしか鼻色(ハムスターは、鼻の色がピンク色だと健康の証なのだ)もいい。しかも、ハゲが知らない間に治っていた(笑)。
 散歩に出るときも、これまでのようにケージの中でひと暴れし、「も、も、もう俺、我慢出来ないっ!」という、せっぱ詰まった感じではなく、「さ、久しぶりに行ってみようかー」という、実にゆったりとした感じだ。
 とにかく、見ていて余裕を感じる。

 そんなわけで、ふと思った。ハムスターというのは、人と触れ合えば触れ合うほど、ストレスを感じるのではないかと。

 今の、お互いにゆったりとした調子で2度目の冬を越したいものだ。

12月2日

 この日は朝からぐっと冷え込んだ。昼になっても気温は上がることなく、夕方のニュースでは、今、八王子で雪が降っていると伝えていた。そして、足早に帰宅するサラリーマンや学生が画面に映し出される。

 みんな生きていた。
 自分の家に帰るため、足を進めていた。
 それはあまりにも当たり前のことでなんの感動もなかったけど、それから数時間後、当たり前のことが失われた瞬間、そのことに今まで感動出来なかった自分が、猛烈に腹立たしいと思うなど考えてもいなかった。

 コーヒーに口をつけ、不意にパソコンの時計を見ると、午前0時を回っていた。エアコンをつけた私が外を見ると、雪混じりの冷たそうな雨が落ちている。
 最近のウインナー君は、午前0時頃には起きている。餌を漁っている音、廻し車を適当に回している音などがその時間になると聞こえてくる。
 だが、八王子に雪が降って、東京にも雪混じりの雨が降っていたこの日。押し入れからは、0時を過ぎてもなんの音も聞こえてこなかった。
(今日は餌をやる日だから、俺が寝る前に起きて来ないと困るんだよな)
 そう思いながら、キーボードを叩く私。

 しかし、それからしばらく経っても、押し入れからはなんの音もしなかった。
(……)
 私はおもむろに立ち上がり、ケージに掛けてある襦袢を少しめくる。

 いない。

 ケージを動かすと、廻し車の裏に彼はいた。

 静かに横たわって。
 綺麗な顔をして、目を瞑って。
 彼は黙って横たわっていた。

 体は伸びきって、硬くなっているように見えた。

 小学生の時。

 飼っていたゴールデンハムスターがこの世から去った時も、まったく同じだった。目を瞑って、静かに横たわって。その目は今にも開きそうなのに、開くことはなかった。

 ……それから2時間後。

 ウインナー君は、一心不乱にピーナッツをボリボリ食い始めた

 ウインナー君。

 君の寝相は死んでいるのと紛らわしい。

1999年1月11日

 最近ますます、寝相が死んだようになっているウインナー君(下図参照)。

 そんな彼は、1ヶ月ほど前からしょっちゅう「ギュウギュウ」と鳴くようになった。
 この鳴き声を実際の音に例えると、クルミの殻をクルミの殻割り器(?)で割ろうと、「割っちゃうよー、割っちゃうよー」と声を出しながら力を入れる時、クルミの殻とクルミの殻割り器が擦れて出る音に近い。

 とにかく、餌を食うにもくつろぐにも、「ギュウギュウギュウギュウ」言っているので、ひょっとしたらどこか悪いのかとしばらく観察してみた。
 だが、腫瘍とかは確認出来ないし、鼻も詰まっている様子はないし、餌は取り憑かれているようにバキバキ食ってるし、特に問題はない感じだ。
 何かあるとすれば「歯」だろうか。もしかしたら、前歯が伸びてそれがこすれて音を出しているのかもしれない。

 今度、歯の様子を見てみよう。

1月22日

さようならウインナー君(最終回)

 あまりにも突然の出来事だった。
 餌を換えるためケージを見てみると、ウインナー君がトイレの中で倒れていた。
 始めは、いつものように寝ているのかと思ったが、呼吸をしている様子がまったくなく、結局、死んでいるのだということがわかった。
 前日まで、元気よく部屋を走り回り、毛繕いをしていた彼が、どうして急に死んでしまったのかわからない。ただ、ハムスターというのは元来食物連鎖の下の方にいるため、弱った自分を敵に見せまいと、体調が悪くなっても普段通りの動きをすると聞いたことがある。ひょっとして、ウインナー君も前から具合が悪かったのに、元気なふりをしていたのかもしれない。

 1年とちょっとの間、それほど交流はなかったとは言え、ウインナー君にはたくさんの喜びと感動を与えてもらった。「あたしの彼はハムスター」だって、ウインナー君がいなければ、書くことはなかっただろう。

 さっき、ウインナー君を土に埋めてきた。
 彼の死に顔は小さな目を瞑って、安らかなものだった。
 ハムスターは飼い主に対して依存心はないものの、死に際には、飼い主の姿を求めてさまようことがあるらしい。ウインナー君も、もしかしたら私の姿を探してくれたんだろうか。
 もしそうならば、その時、看取ってやれなかったことが残念で仕方がない……。

 ウインナー君、ごめんね……。

2003年9月12日 あとがき

 本文にもある通り、ウインナー君と一緒に生活していたのは1年と少しだった。ペットを飼うとやはりペット中心の生活になるもので、面倒だなんだと言いつつ、餌と水をやり、巣材は何がいいのか考えたり、うまく飲める給水ボトルを選んだり、いいおやつはないかと探してみたりという毎日だった。当時付き合っていた彼女との話題もウインナー君のことが多く、彼女もウインナー君のことを気に掛けていた。
 亡くなった時は本当にショックで、冬だから冬眠しているのかもしれないと毛布にくるんでみたり、手で温めたりして、とてもじゃないけど埋葬する気にはなれなかった。しかし、丸一日たって本当に死んでしまったということがわかり、本当に申し訳ないという気持ちで家の近くに埋めた。

 本文にあるが、ウインナー君は亡くなる前、よく鳴いていた。ハムスターは基本的に鳴く動物ではないし、それが鳴いていたということはどこか苦しかったり、何か異変を知らせていたんだと思う。それなのに病院に連れて行かなかったというのは完全に私の怠慢だった。
 もし、今、ハムスターを飼っている人がいたら、ちょっとの異変でもすぐに病院に連れて行ってほしいと思う。人間にとってはちょっとでも、小さなハムスターにとってはきっと大きな変化だから。

 この世のすべてのハムスターが天寿を全う出来るように――。

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