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前回に引き続き、原稿料の話。
書籍の原稿料は印税が入ってくるため、雑誌に載せた文章の原稿料の支払い形態とだいぶ違ってくる。
よく言われる「本の値段の10%(印税率)×発行部数=印税」という計算式はほとんど間違っていないが、10%という数字はあまりないと思う。他の作家さんに聞いたわけではないので断定は出来ないが、5%~8%ぐらいというのが標準ではないかと思う。というわけで、たとえば、何かの間違いで「さっか道」が
初版発行部数7000部 単価1000円(税込み 印税率8%
という条件で本になった場合、私の銀行口座には、
80円(1冊あたりの印税収入)×7000部(=560000円)-56000円(源泉徴収額)=504000円
振り込まれるのである。これは、どれだけ売れなくても、たとえ一冊も売れなくても変わらない。また普通の労働とは違い、書いている最中に月10万円なんていう感じで報酬を受け取れることはなく、書き終わるのに2週間かかっても、3年かかっても報酬は変わらない。
何かの間違いで「結構売れているから、再度刷ってみるか」ということになると、
2刷発行部数2000部 単価1000円(税込み) 印税率8%
で、144000円が振り込まれる。あとはもうこの繰り返しだ。息長く売れ続ける本を書いたら、それはもう年金みたいなものである。
逆に、初版だけで終わる本を一年で一冊しか出せないとなると、50万円がドンと入って終わりだ。出版不況の今、これは珍しい話ではない。
もし、小説家になるために一念発起して仕事を辞めてサイトを立ち上げて、しばらくして小説の執筆依頼が来て、出版して50万円入って、しかし次回作がなかなか出なくて50万円もいつしかなくなり彼女に誕生日プレゼントを買ってあげられずに別れて、ご飯のおかずは50円の4分の1カットキャベツだけになり、気持ちに余裕がなくなってサイトの更新が出来なくなってきて、だけどサイトも小説も続けたいし、とりあえず30歳以上でも出来るバイトをなんとか探して生活費を稼ごうと思ったその日に、
無題 投稿者:ああああああ 投稿日: 2月15日(水)18時58分03秒
更新がもう一カ月ないですね。いつ来ても忙しいとか仕事がどうとか言い訳ばっかり。もう聞き飽きました。更新出来ないならもうサイトを閉じたらどうですか。小説家もさっさと廃業したらいかがでしょう。全然面白くないし(w
こんな書き込みを見てしまった三十路の小説家の知り合いがいたとしたら、彼が半狂乱になって金属バットでパソコンをぶっ壊し始めても私には止められない。IPをプロバイダに連絡して、「荒らされました。民事裁判を起こしたいのでこの人の住所を教えて下さい」と言って、家を突き止めて殺しに行くとなるとさすがに止めると思うが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を手で覆っている彼に対し、「俺も似たようなこと何回も言われたことあるよ。でも、そういうもんじゃん。まあ、とりあえず飲みに行こう。奢るよ。還付金入ったからさ」と声を掛けるのが恐らくやっとだろう。単行本執筆だけで生きていくのは本当に難しいのである。
もし、印税という言葉にロマンを感じている会社員の人がいたら、月一回絶対に支払われる給料っていう言葉の方が遥かにときめくよ、と言いたい。
これから小説家になるという人は、ライターとしての仕事も出来るように浅く広くでもいいから出来るだけ多く知識を身につけた方がいい。ファンタジー小説だけ読んでいてファンタジー小説しか書けない、というのもそれはそれでありだと思うが、もしヒット作(重版がかかるような)が2、3年出ないと一気に苦しくなると思う。3冊出して駄目だと見限られるというのはある意味本当だ。駄目なら駄目で仕方がない、ただそこで諦めずにファンタジーでも別ジャンルでも、小説家として再挑戦出来るように力を蓄えよう。小説が書けない時でもお金を取れる文章を書いて鍛えよう。そのために知識と経験が必ず必要になる。
さて、ここで本筋に戻ることにしよう。
月末に講談社からアイデア料が振り込まれるとAさんから聞いて数日経過し、その月末がやってきた。
(そろそろ支払明細書が届く気がする。あれさえ来ればこっちのもんだ)
支払明細書とは、実際に原稿料が振り込まれる数日前に届く予告状みたいなものである。○月×日に○○円、あなたの口座に振り込みますよ、と書いてある。あくまでも予告なので、それが届いたとしてもまだ振り込まれていない。ただ、支払明細書が発行された時点で振り込み手続きが取られているので、届きさえすればお金は入ったも同然なのである。
↑支払明細書の一例
――コトン
ポストに封筒らしきものが入れられた音がした。走って玄関まで行くと、そこには講談社と書かれた封筒が落ちていた。
(よっしゃ、来た!)
封を切って中を見ると、28万円の文字が書いてあった。これで焼き肉も帝国ホテルもなんとかなる。私はほっと息をついて、自分の部屋へと戻った。