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テキスト王で半レギュラー化しているこのフレーズ(更新しないならやめろ)を、私が目の当たりにしたのはこの時が初めてだった。
私の頭の上ではクエスチョンマークが乱舞していた。なぜ更新しないと閉鎖しなければならないのか。閉鎖をするとかしないとかというのは作っている私が決めることで人がとやかく言うことではないだろう。更に突っ込むなら、当時の更新ペースは二、三日に一度ぐらいで、この書き込みをされた時は五日ぐらい更新がなかっただけだった。平均して三、四日に一度の更新である。ここ数年のテキスト王しか知らない人にとっては、「うわー、テキスト王の人、こんなに更新しちゃってどうしちゃったんだろう)と心配しそうなハイペースだ。
だが、更新ペースが落ちていたことは確かだった。なにしろ、金田一出版前は毎日更新だったのだから。
申し訳ないと思いつつ、いきなり“やめろ”はないだろうとため息をつきながら、私は返事を書いた。
【名 前】ZERO※ 【タイトル】メッセージありがとうございました |
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※当時の私のハンドル
すると、別の人からこんな投稿があった。
【名 前】名乗るほどの者ではございません 【タイトル】無題 |
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(……)
最初の書き込み以上にクエスチョンマークが頭上で乱舞した。更新出来なかった理由を書かなければいけないだろうと、私は正直に「忙しくて無理だった」と書いたのだが、その理由を聞くとイライラするという。私は他人が日記でそう書いていてもなんとも思わないが、書き手と読み手の違いだろうか。
【名 前】ZERO 【タイトル】すみませんでした |
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掲示板というのは、種火が少なくても燃えやすい材料があれば大きな火災が発生する。いつしか訪れる人が多くなり、今までのまったりとした雰囲気はなくなり、厳しい書き込みが目立つようになってきた。
【名 前】通りすがり 【タイトル】どうでもいいけど |
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【名 前】あ 【タイトル】あの・・・ |
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書き込みがあるたびに、一生懸命考えて答えた。有料化なんて考えていないし、皆さんのおかげで本を出せたと思ってる、サイトとプロの活動を両立するのは難しい、でも更新出来る時はする。
正直、なんでこんなこと言われなきゃいけないんだろうと悲しくなっていた。以前のように昼間はバイト、夜はたっぷりと空き時間があるというなら毎日更新することも可能だろう。だが、今は物書き一本でお金を稼いでいて、時間的余裕があまりない。それに頭の中も仕事のことでいっぱいだ。だから、以前のように頻繁な更新は難しい。読んでくれている人はわかってくれていると思っていたが、書き込みを読む限りでは、仕事は二の次にして更新を優先しろと言っているように思える。
レスに追われる私を見て気の毒に思ったのだろう、当時の常連さんがこんな書き込みをしてくれた。
【名 前】太郎 【タイトル】待ちましょう |
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(どうもありがとう)
モニター越しに頭を下げた。これで沈静化する、そう思った。ところが、すぐに反論のレスがついた。
【名 前】aaa 【タイトル】無料? |
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当時、更新がないサイトをかばう書き込みには、大抵、このレスがついた。ブロードバンドはまだ普及してなくて、ナローバンド接続が当たり前の時代、ネットに一分いる毎に数十円取られていた。
(ネットにつないでいるのはあなたの意思だし、サイトの更新は義務じゃない。なんでプロバイダー料金や電話料金を払わなきゃいけないんだ)
というのが正論だと思うが、こんなことを言う制作者は誰もいなかった。言いたくても言えないというのが本音だったと思う。もし言ったら最後、サイトはあっという間に潰れただろう。筆者と読者の力があまりにも違ったのだ。
仕事も大切だったが、自分がここまで作ってきたサイトも大好きだった。そして、そこにある文章を読んで感想を送ってきてくれた人がいるから今の自分があるわけで、とてもじゃないが忙しくなったのでもうやめます、さようならなんて言えない。完全な両立は難しいが、なんとか両方ともうまくやっていきたかった。
(どうすりゃいいって言うんだよ……)
パソコンデスクに両肘を載せ、両手で顔を覆った。無理なものは無理だし、出来ないものは出来ない。だが、そのことをなかなか理解してくれない。そもそも、なぜここまで責められなければならないのか……。
当時の私はわかっていなかった。テキスト王には更新に関するトラブルが起きる下地があるのだということを――。