2011-1-15 Saturday

個人サイトの成功者は結局小さくまとまるのか

 私がインターネットに初めて接続したのは1996年。それから15年という切りのいい月日が流れたが、あの日から今日までどれだけ「個人サイトが成功して書籍化された」という例を見てきただろう。
 私が見た中では誰が最初だったかというのは覚えていないが、皆、比率的にアクセス数が突出していた。端的にいうなら“凄かった”。

 そして現在。あの頃、本を出すまでに至ったネットで凄かった人たちは、ネット以外の場所でもやはり凄いのか?
 凄い人はきっといるだろう。第一、表舞台で名前を出して活躍しているということだけが凄いというわけでもない。ただ、上の問い掛けに間髪を入れず自信を持って首を縦に振れる人はなかなかいないのではないだろうか。
 今でもプロとしてやっているらしい人は知っている、だけどどこかでなにかを書いているようだぐらいのことしかわからず、単著はしばらく出ていないみたいだし、ネット以外のメディアで彼らの名前を見かけることはない、というのが流行っていた頃に個人サイトに熱心にアクセスしていて、今でも定期的に個人サイト界隈を見ている平均的なユーザの意見だと思う。当時はよくアクセスしていたけど、今は個人サイトとのかかわりはまとめニュースサイトを見るぐらいという人であれば、あの頃凄かった人を実社会ではおろか、ネットですら見ることがなくなったというのが正直なところではないだろうか。

 ちょっとエキセントリックなことでも書こうものなら多くのユーザが大騒ぎしたようなレベルのサイトの――いわばネットでは突き抜けていた――運営者であっても、専業のプロになれば結局小さくまとまってしまうのか?

 上記の問い掛けに対する私なりの回答を書く前に、なぜ凄かった人はサイトのアクセス数が突出していたのかということについて考えを記したいと思う。
 ユーザが多いのは基本的に面白いからなのだが、私は、“ネットの面白い”というのは大きく分けて二つ、「自由ゆえの面白さ」と、そこから派生する「次になにをやるかわからない面白さ」だと思っている。
 たとえば、最近のサイトであればふんだんに画像が使われている。そこに文章を加え、優れた構成を見せているサイトの人気が高いことはご存じの通りだ。また、今日、猫と戯れたことを書いた日記が、明日、ツイッターのタイムライン上での揉め事を面白おかしく評論してもまったく問題がない。そういったバラエティに富んだ生産力も魅力になる。ネットで凄い人はもともとの才能とバイタリティに加え、自由をコントロールできるスキルと引き出しの多さが尋常ではないのだと思う。

 しかしだ。この自由が商業誌にはない。それは今も昔もこれからも変わらない。画像を使えるということがまず少なく、まして自由に指定できるなんていうことは考えられないし、もしライターとしてコラムを連載するとなったら必ずテーマを与えられるからだ。有名人でない限り、「あなたが書くということがテーマだから、なにを書いてもいいですよ」というのは絶対にあり得ない。
 ネットというのは大抵のクリエイターにとって「陸」のようなものだ。個人でどんなパフォーマンスでもできる。しかし、商業の世界は自由が著しく制限されるという意味で「夜の海」なのだ。暗闇に覆われた海で人間が生き残るためにはどうすればいいのかというと、これはもうただひたすら泳ぐしかない。大勢の人が海で泳いでいるところを想像していただきたいのだが、ちょっと泳ぎ方に変化をつけたとしても、全員、同じようにばしゃばしゃ水しぶきを立てて泳いでいるとしか映らないだろう。
 そこから向こう岸に辿りつけた人だけが、作りたいテーマで物を作れるといった、商業の世界においての(ある程度の)自由を得ることができる。向こう岸に辿り着ける人がほんの一握りなのは皆さんご存じの通りだ。

 私は、“ネットで凄かった人は結局小さくまとまる”とは考えていない。そうではなく、対岸に向かって全力で泳いでいる姿が小さくまとまっているように見えてしまうのだと思っている。文章を書くという方面に進んだ人であれば、仕事は署名原稿の執筆だけじゃない。雑誌のページ横にある一口メモのような記事、インタビューをした人間の名前が載らない、有名人のインタビュー記事、ゴーストライターとしての原稿。プロとして生きていくというのはそういうことであり、それが没個性に見える。
 だが、繰り返しになるが、彼らは決して小さくまとまっているわけではない。彼らはプロだからこそ夜の海に入り、プロとして生き抜くために対岸を目指して今も全力で泳いでいるのだ。

posted by kudok @   | Permalink

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