2013-8-25 Sunday

プロのクリエイターが「あなたの作品のあそこがおかしい」と突っ込まれた時に思うこと

 本を読んだり、映画を見たりしていると、構成や論理、理屈といった部分で「明らかにおかしいと思うところ」を見つけることがある。
 たとえば、私は、映画『ディープ・インパクト』をテレビで幾度となく見ているが、そのたびに突っ込んでしまうシーンがある。ニューヨークに津波が襲来したとき、みんな、津波から必死に逃げようとしているのに、一人だけ新聞かなんかを持った老人が達観した様子で津波を背にして座っていて、新聞を広げた状態で流されてしまうという場面だ。

上の動画は公式のTrailerで私が言っているシーンは出てきませんが、本編において、このTrailerの2分57秒辺りに映るシーンの後に出てきます。気になる人はDVDを借りて見てください。

 高さ100メートルぐらいありそうな津波が来たとき、逃げることも振り向くこともせず、ただ後ろを向いて黙って座っている人がいるだろうか。その前に出てくる、ニュースキャスターの女性と彼女の父親のように津波と正対した状態で覚悟を決めるシーンは演出として理解出来る。しかし、仮に達観しているのだとしても、新聞を持ちながら津波に無視を決め込んで後ろ向きに座ったままというのはどうだろう。見るたびに、CG担当者がなんか間違えたんじゃないかと思ってしまう。

 このような、なんかおかしいところを見つけたあと、作者に直接会う機会があると、それを伝えたくなる欲求が湧いてくる。作者を責めたいのではなく、作者の役に立ちたいという気持ちからだ。多分、私のほかにも、そういった欲求を持つ人は多いのではないだろうか。実際、私は自分が書いた作品について、直接会った人たちに「あそこのシーンについてなんですが……ちょっとおかしいかなあと……」と申し訳なさそうに言われた経験が何度もある。
 で、不特定多数の人に言われる立場になってわかったのだが、案外、作者はそのおかしな部分をほぼすべて把握している(勿論、言われて初めて気づくこともある)のだ。私自身で言えば、感熱紙に文章をしこしこ印刷して配っていた頃は、友人に指摘されるたびに「おまえの読み方はひねくれている!」とマジギレしていたが、商業誌に載るようになってからは同意することがほとんどだ。多分、編集者と仕事をするようになって少しは客観的な物の見方が出来るようになったのだろう。
 そして、「あそこのシーンはおかしい」という善意の指摘に対し、「ええ、わかってますよ」とどや顔で即答するのはいろいろな意味でいかがなものかと思うので、「ああ、なるほど!」と答えている。聞いたわけではないが、他のクリエイターも似たり寄ったりではないだろうか。
 つまり、作者は自作の問題点を把握していながら、あえて修正せずにそのまま出しているのだ。

 なぜ自作のおかしな部分がわかっているのに、それを直さずに出すのか。作品によって事情はいろいろだと思うが、共通していそうな理由が作者側と編集(プロデュース)側にそれぞれ一つずつある。
 まず作者側の理由。

そこを修正すると、全体を修正しなければいけなくなり、それは時間的に無理だから

「14画で漢字を表す」というのが作品のテーマだとして、

 と書いたとする。
 本来、「心」であるべき部分が「必」になっていることに気づき、修正しようとするが、そうすると13画になり、「愛」という文字自体を変更しなければならなくなる。ところが、別の14画の漢字を探して一から書き直す時間がないので、おかしいのは承知でそのまま出すといったパターンだ。
 間違った部分を修正すると全体の理屈、あるいは作者の中でバランス、構図が合わなくなるので、修正したくても簡単には出来ないということである。

 一方、編集(プロデュース)側の理由は、

現在のもので偉い人から(やっとのことで)OKをもらっており、いくら作者がもっとよくなると言っても、バランスが少しでも変わるような修正はしたくないから

 というものだ。
 愛という字を手書きで書いていた作者が、

「あー、やっぱ、活字にした方が綺麗だから、こうしましょう」

 と言って、修正しようとしても、既に手書きの「愛」で話が進んでいた場合、活字の「愛」だとバランスはまったく違うので、改めて偉い人に提出し直しになる。だが、活字の「愛」にもOKが出るとは限らない。時間もないし、話がややこしくなったら困るので、あえて冒険をするのはやめよう、ということである。
 コンピュータプログラムの世界で言うところの、動いているプログラムには手を入れるな、という話と似たようなものだ。

 並べてみるとよくわかるが、よりおかしな部分が残りやすいのは作者側に理由があった場合と言える。作者の準備不足、推敲不足、そして力不足といったところに起因することが多く、内心かなり凹むので、作品を見た人に申し訳なさそうに「あそこのシーンについてなんですが……」と追い打ちをかけられると、「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と変な声で叫びたくなることも少なくないが、その辺を察して伝えるのはやめてほしいとはあえて言わない。
 ただ、「バランスとかあるから、そこだけ修正するのは結構難しいかもね」といったフォローを入れてもらえると、作者はきっとありがたく思うだろう。

posted by kudok @   | Permalink

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