第10回 アメリカ横断ウルトラクイズ挑戦記(3/4)

サイト掲載日 1998年8月31日 エッセイ


 1問目を無事にクリアし、私自身、かなり盛り上がっていた。もともと、今年はこれまでの人生で初めてと言えるほど運気(女運以外)がいい。この流れに乗っていけばウルトラクイズ最初の、そして最大の難関「東京ドーム突破」も有り得るのではないか。
 実際、頭の中では東京ドーム勝ち抜けの音楽が、延々とループしながら鳴り響いていた。そして、両手を突き上げている私の姿がくっきりと映っている。ここまで妄想が膨らむと、独りマインドコントロール状態と言っても差し支えがないだろう。私は高まる期待に心臓をドクドクさせながら、次の問題を待った。
「……それでは、次の問題。ここからは考える時間が20秒になります」
 福留さんが不適な笑い声をこぼしながら言う。
(え、20秒!?)
 はっきり言って、これは誤算だった。前回までのウルトラクイズなら、3問目ぐらいまで、問題が出されてから正解発表まで5分程度の余裕は確実にあった。
よって、いろいろと調べたり、考えたり出来る時間もあったのだが、20秒となるとのんきに考えている暇はない。
「それじゃいくぞ。問題」

今まで日本で発売されたレコードで、「自由の女神」というタイトルのものがあった。○か×か

(こ、これは……)
 考える時間20秒をマイナスイメージで引きずっていた私の心に、一筋の光明が差し込んだ。
(裏取り理論で解けるのではないのか!!)
 裏取り理論。なんじゃそりゃ? という方に、説明しよう。
 普通、クイズを作る際(特に○×クイズにおいて)、問題の答えが正しいことを証明するために裏(証拠)をとらねばならない。例えば、「オリックスに所属するイチロー選手の本名は鈴木一朗である。○か×か(正解は○)」という問題を使うとしたら、戸籍を調べるなり、本人に聞くなりして、イチローが本当に鈴木一朗なのかどうか裏を取る必要がある(イチローぐらい有名ならば、本人に聞かなくても問題ないが)。
 このことを利用して○×クイズの答えを考えると、裏を取りにくい問題ほど正答が導きやすいということになる。
 わかりやすく説明すると、「人間には乳首が8つある人もいる。○か×か」という問題があった場合、これを×(乳首が8つある人はいない)とするには、世界にいるすべての人間の乳首を確認する必要がある。しかし、そんなことは出来るはずもないのだから、あらかじめ事実があっての問題ということで「○」とするのが妥当、という風に正答を導けるのだ。
 この方法を使って、「自由の女神レコード問題」を考えてみよう。
 まず、日本で発売されたレコードとは、当然「自主制作」のレコードも入ると思われる(これを排除する記述がない)。もし、自由の女神という曲が発売されていない(ようするに×)とした場合、オリコンの記録にも載っていないような、膨大な数の自主制作レコードもすべて調べた上で×としなければならない。だが、そんなことは不可能だ。仮に頑張って調べて×としても、どこかの誰かが「いや、俺が昔、自由の女神というタイトルのレコードを3枚作って親戚に売ったよ」と言い出したら、そこでクイズは成立しなくなる。
 よって答えは○、つまりこの問題は、自由の女神というタイトルのレコードがあるという事実をもとに作られたものなのだ(ちなみに、この辺の理論は第13回ウルトラクイズの優勝者である長戸勇人氏の著書に詳しい)。
(よし、○だ!)
 私は自信を持って、グラウンドに○を向けた。ドームを突破するには10問以上連続で正解する必要がある。こんなところで間違ってはいられない。
「さあ、それじゃ正解を見てみよう。正解はこれっ!

まる

よおおおおおしっ!!!

 私は、第1問目の正解発表の時と同様、ドゥンガよりも地味、桑田よりも派手なガッツポーズを決めた。もし、工藤カメラなるものがあって追跡されていたら、そこには、警戒をしているゴリラの如く吼えている茶髪の男が映っていただろう。
 この情熱を異性との交際に向けていれば、「あたし、工藤君が誰のことを好きなのかわからない」などと言われることはないのかもしれない。

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