ネット話系エッセイ-18 閉鎖の理由

2002年12月5日執筆


 以前、掲示板か日記に書いたような気がするのだが、私が中学2年生の時、こんなことがあった。
 登校中に郵便局のポストの前ではがきを一枚落とした。
 昼休み、親切な知人が「これ、工藤のだよね?」と届けてくれた。雨が降っていたせいで、はがきには靴で踏まれたあとがくっきりと付いていた。私は怪訝な顔で彼を見た。踏まれていたことではなく(多分、意図的に踏んだわけではないだろう)、知人が笑っていたことが引っかかったのだ。
 はがきを受け取って見てみると、そこにはマッキー極細で、

 ジャンプ放送局宛「奇特人間大賞」係

 ペンネーム 綾小路文麻呂

 の文字が記されていた。ネタはまったく覚えていないが、恐らく、

 奇特人間大賞のために、
 一カ月の小遣いを一日で使った俺(もちろん、はがき代っす)

 まあ、こんな感じだっただろう。
「それじゃ」
 知人は肩を震わせながら帰っていった。綾小路文麻呂というペンネームも問題があったのだと思うが、知人の最大の笑いの壺は私がジャンプ放送局に投稿していたということだったと思う。ジャンプ放送局がおかしいのではなく、恐らくわざわざはがき買ってきて、ネタを書いて、それを送るという行為が笑えたのである。

 インターネットに慣れていると別になんとも思わないが、世間一般的に個人が自分の考え、あるいは創作物を文章にして人前で発表するという行為はだいたい笑いの対象になる。私がそうであったように。
 ピンと来ない人の方が多いと思うので、わかりやすい例を挙げよう。皆さんの職場に

人間のシルエット

  • どちらかというとおとなしい
  • みんなと行動を共にすることが少ない
  • 仕事以外の話はそんなにしない
  • 文章書くことを公言していない

 会話例

「○○さん、今度、みんなで一泊旅行に行こうっていう案が出ているんですけど」
「……いや」
「えっと、行かないっていうことですか?」
「うん」
「わかりました。○○さん欠席っと」

 こんな人がいたとする。まあ、わりと普通の人である。あなたは偶然にも彼がホームページを作っていると知って、彼のページを見つけた。そのページにもし、

サイトの例その1

 こんな文章が載っていたらどう思うだろう。ネットでは普通度90%ぐらいの文章である。それなのに、

(……え?)

 と固まってしまわないだろうか。顔文字とか入っているし、ギャップもあるし、話題もちょっとあれだからかなという気もする。が、

サイトの例その2

 ↑でも、「……これって」という感じでやはり同じような印象を受けると思う。ネットでは普通。ところが、作者が身近だとなんかおかしいのだ。なぜだろう。
 以下、私の考えである。

 まず世間的なイメージとして、開かれた場で自分をアピールしている奴はどこか変わっているというのがある。が、それがダンスであったりバンド(キッスみたいに、わかりやすいメイクのバンド除く)だったりすると受け入れられやすい。ニュースでやってる「自分の夢を追って前向きに生きている若者特集」みたいのによく取り上げられているし、第一、自分には出来ないことなのでかっこいい。
 しかし、文章の場合、テレビを含めたメディアに取り上げられるとすると、だいたい

無謀な夢を追って貧乏生活を送る若者特集 その1 ~ある小説家志望K君の場合~」

 という感じで、嘲笑の対象になるのである。それに、文章を書くだけなら誰でも出来るし、動きがないから映像からはまったく凄みが伝わってこない。世の中の常識はいつからか、「頼まれてもいないのに文章を書く人、文章で主張する人=ちょっとおかしい人」に変化していった。
 そのちょっとおかしい人がネットにいる分にはまったく無感動。ところがそばにいるとなると、動物園からパンダが逃げ出して近くに住み着いたみたいな感じで面白いし、笑えるし、変なのだ。

私が感じた世間のイメージ

状態 世間のイメージ
文章が得意 多分理屈っぽい
作文コンクールに入賞 なんか違う場所の人
懸賞作文に応募 無駄な時間を過ごす人
小説を書き始めた 早くこっちの世界に戻ってきて欲しい
小説家志望 怖くて声を掛けられない
無名作家 あの人、何やってる人かしら

 私は素人であれ玄人であれ、整然とした文章を大量に書ける人は単純に凄いと思う。小、中、高と、一つのテーマで400字詰め原稿用紙10枚書ける人がクラスに何人いただろう。小説系、テキスト系、ニュース系、掲示板……。ネットにはそんな人間がごろごろしている。しかも面白い。読ませる。本当に心から敬いたい。

 ところが、世間がさっき書いたような扱いなので「誰かに知られるとまずい」と自覚している書き手もいる。そんな人が、

サイトの例その1

「○○さんのページ(↑)を見つけたと言ってみるテスト

 あまり話さない同僚の美人OL5人に囲まれて、後ろから肩を人差し指で突っつかれこんな風に言われて、言葉に詰まった瞬間、手を何度も叩かれて爆笑されたまま、場を去られたら。

 会社の社内報を貼るところに、

 ウクライナという名前のホームページを作っている、営業部の、ちょっとおとなしめの××さん曰く、

サイトの例その2

BGMは当然ロッケンロールだ そうです」

 と書かれた紙を貼り付けられたら。

 ある種の恐怖を感じるだろう。

 友達の悪口を書いているから、なんていうのもあるだろうし、職場の人に知られたみんながみんな、恥ずかしい思いをしたくないから閉鎖というわけではないと思うが、20代半ばから30代前半の社会人のサイト閉鎖理由の一つとしては絶対あると思う。
 21世紀、頼まれていない文章を書いていることが知られても、変に思われない世の中というのは来るのだろうか。

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