ネット話系エッセイ-7 ネット人格

1998年12月17日執筆


 インターネットやパソコン通信で、いろいろな人の発言を見ていると、(この人とは是非会って話をしたいなぁ)と思う人が何人かいる。こういうのをファン心理とでも言おうか。
 しかし、そういう憧れとはまた違うところ(興味とでも言うべきか)で会いたいと思わせる人がいる。

 以前、某大手ネットでパソコン通信をしていた頃の話だ。今も貧乏だが、当時は今を遥かに越える超絶貧乏状態で、ある日、ネットの掲示板に「送料別3000円でWINDOWS95のCDを売ります」と掲示した。バックアップの利かないOSを売りに出した時点で、苦しい経済状態が伺えるが(ちなみに、当時のバイト代は休みなく働いて月10万円)、それはとりあえず置いといて、買いたいという人たちから何通かメールが来た。
 だいたいは、「状態はどうですか?」とか「箱はついてますか?」とかそういう感じで、冒頭に簡単な挨拶(掲示板見ましたなど)もあり、普通だったのだが、どうもお一人だけ他の人とちょっと違う方がいた。
 彼のメールの全文はこんな感じである。

3000円か。安くはないが、まあいいだろう。

 このメールを読んだ時、差出人は、どこかの国の王様かと本気で思った。
 いや、確かに売り手と買い手の関係というのはこんなものかもしれないが、それにしても偉そうだ。
 どうも釈然としないものを感じたが、とりあえず言うことは言っておかないといけないので、へりくだった口調でこう返事をした。

**さん、こんにちは(^-^)

メール、どうもありがとうございました。
それでWIN95のCDなんですけど、送料は別で3000円なんです。
これでもよろしいでしょうか?? もしよろしければもう一度メールを下さいm(__)m

 どうも王様は、送料込みで3000円と思っている節がある。これを知らせないで後から要求すると、どんなことになるのか恐くて想像出来ない。
 そして次の日。王様から返事が来た。

送料別か。それならやめておく。忘れてくれ。

 これ以降、王様からメールはなかった。
 私としては見ず知らずの人間に、これだけさばけた口調でメールを出せる人というのはいったいどんな人だろうと興味が湧いて仕方がない。実際会ってもこんな感じなんだろうか。

 こんな人もいた。

 その人は通信で知り合った女性と恋に落ちたのだが、ある日、彼女にメールでこう言われたのだと言う。

「わたし、あなたに嘘をついていました。このID、本当はお姉ちゃんのものなんです。わたしは、本当は高校生です。あなたと会う前にこのことは言っておかないといけないと思ってメールしました。わたしの嘘を許してくれるなら、是非会って下さい」

 どうも相手の女子高生は、姉のIDを使い、彼とメール交換をしているうちに彼を好きになってしまったらしい。そのことをなかなか言い出せないまま、会おうと迫られ、とうとう嘘を告白した。
 しかし、この嘘はネット恋愛において、そんなに致命的な嘘には思えない。名前で好きになったのならまだしも、彼女の書く文章で、彼は彼女を好きになったわけだから。
 私だったら、「そんなこと気にするなよ。たまたま言い出すタイミングがなかったんだろ?」でおしまいにするが、彼は違った。
 掲示板に怒りをぶちまけたのである。

 私は彼女に、今までずっと騙され続け、馬鹿にされていたのかと思うと腹が立ってしょうがありません。勿論、会うつもりはありませんし、メールもこれっきりにしたいと思います。
 それで、彼女のやっていたことは明らかにネットの規約違反なので、センターの方に訴えたいと思います。この場合、どこにメールすればいいのでしょうか? 教えて下さい。

 私は掲示板に書かれた彼のこの文章読んで、(そうじゃないんじゃないかなぁ……)と何度も疑問に思った。
 人を好きになるっていう想いは、ネットの規約違反で覆るようなものなんだろうか。
 その後、彼が掲示板に文章を掲示することはなく、彼女とその後、どうなったのかわからない。

 しかしこの彼とは、一度お話ししてみたいとつくづく思った。

目次へ

▲このページの先頭へ戻る