恋愛系エッセイ-2 バレンタインデー
1998年2月12日執筆
もうすぐバレンタインデーだ。20歳以前にはまったく縁のなかった日である。
学生時代、朝、ヤクルトが入れられる場所を確認、学校に着いた後、すぐさま机の中を確認(たまにコッペパンなどが入っていることもある)、帰るときも教室内でしばらく粘り、家に着いてからはひたすら電話を待っていた。
しかし、なにもなかった。たったの1個ももらえなかった。
はっきり言うと、小中高の12年間で通算0。
前にここに載せたが、中学の卒業文集に「バレンタインデーにかけた青春」なる作文を寄せたことからして、当時の私がいかにコンプレックスを抱いていたかがわかる。
あまりのもてなさ加減に、中学に進学してから取り始めた、進研ゼミから送られてくる雑誌(確かチャレンジランド、略してチャレランだった気がする)に掲載されているコーナーで、恋愛話のコーナーがあったのだが、そこに書いてある、
わたし、この間、同級生の男の子に告白されちゃって……。すごいびっくりしちゃって悩んだんです。このことを彼に話したら、彼も心配してくれて……。
でも、勇気を出してお断りしました。彼がすごく優しくしてくれて本当に嬉しかったです! 彼が今までよりももっと好きになりました(ハート)
康平大好きっ子(13)
こんなのを見ると、(あー、この振られた方が俺だ)と思えて落ち込んだ。
しかし、恋愛経験が0ということは恋愛に対して夢を抱けるということでもあると思う。その最たるものが、好きな人を休み時間などに見た時、
(また目が合ったよ。もしかして、あいつ俺のことが好きなのかな?)
と生じる意識である。どういう経緯を経て恋人同士になれるかなんて全然わからなかったから、簡単に恋愛を感じられることが出来たのだ。
当時はまったく気づいていなかった。
こっちが見ているから向こうが見るのだという事実に。
私からすると、向こうも気があるからこっちを見ているとしか思えなくて、バレンタインデーの前日ぐらいになると、その日たまたま目が合った女性が出てくるこんな妄想が頭の中でエンドレス再生されていた。
女A
「ねー、工藤」
私
「え?」←部活が終わった後に制服姿の女二人組に声を掛けられた。
女A
「なんか、この子があんたに話があるんだって」
私
「話?」
女B
「え……ちょっと、恥ずかしいよ」
女A
「なに言ってんの、あんたが自分で言うって云ったんじゃん。ほら、早く言いなよ」
女B
「……でも」
女A
「もう、わたしはお邪魔だから、帰るね。それじゃ工藤、この子のことよろしくね! じゃあねー」
女B
「あ、ちょっと、**!」
沈黙10秒間
女B
「あ、あの」
私
「なに?」
女B
「あの……これ、作ったから……食べて」←リボンつきの紙袋を差し出す
私
「あ、どうもありがとう」
女B
「えっと、あの……」
私
「……」
女B
「わたし……前から工藤君のこと好きだったの」←顔真っ赤
私
「……知ってたよ」
女B
「え」
私
「なんとなく、そうじゃないかなーなんて思ってたからさ。でも……俺もおまえのこと好きだから、すごい嬉しい」
女B
「……」
私
「チョコ、ありがとう、家帰ったらすぐに食べるよ。それじゃな」
女B
「あ、あの……ちょっと待って!!」←脚をやや開き、両手を口に持ってきて目を瞑りながら大声で
私
「ん?」
女B
「わたしも大好きだよ!!」
しかし、結果は書くまでもないが、この妄想が現実化したことはただの一度もなかった。
学生時代、私にとってのバレンタインデーというのは、母と妹がくれる義理チョコをぼりぼり食べる日という意味合いでしかなかった。
一昨年、去年とバレンタインチョコバブル絶頂期が訪れ、2年間で30個(全部義理チョコだが)ぐらいもらって左手に団扇を持ちながら笑いが止まらなかったが、今年はまたあの忌まわしき学生時代のように「もらうチョコ0」になることは十中八九間違いない。その自信がある。
しかし、今年は幸いなことに14日は家を留守にするので、自分の中でそれを言い訳にしながら生きていけそうだ。
ま、来年頑張ろう。