第六十四回 舞い込む依頼 その4 ~ゲーム副読本編~


(羽根が生えているキャラクターが多いな)

 頭から終わりまで雑誌を読んでみたが、背中に羽根が付いているキャラクターが3人ぐらいいた。最初、象徴的な意味合いで本来はあるはずのない羽根を描いているのかと思ったが、よく読んでみるともともとあるようだ。そう言えば、ブラックジャックで鳥人間ってのがいたよなぁと呟きつつ、羽根が生えているキャラクターを見ていると、不意にある考えが頭の中によぎった。

(俺が考えた18禁ゲームのキャラクターに足りなかったのは、萌えキャラだったのではないだろうか……)

 萌え。

 パソコンがインターネットにつながるようになって半年ぐらい経った人なら、誰でも一度は見たことがある言葉だろう。そんな有名な新語なのに、語源も、いつから使われ始めたのかもはっきりしていない。私がニフティにつなぎ始めた頃、フォーラムで「○○萌えー、○○萌えー」と叫んでいた人がいたから、10年ぐらい前には既に存在していたと思う。
 なにがどうなのかよくわからないこの言葉に、多くのクリエイターが悩まされている。キャラクターグッズを売りまくりたい、ようするにメディアミックスで儲けたい場合、いわゆる“萌えキャラ”を作らないことにはどうにもならないのだが、今、お金を出す人たちが何に萌えるのかというのははっきりしていないからだ。

 萌えとは大抵の場合、「愛らしい」「可愛らしい」という意味合いで使われていると思うので、たとえば、“ポニーテール萌え”だったら、「ポニーテールの女の子って可愛くて見ていると興奮してくる」という感じだと思う。
 じゃあ、なんとか萌えっていうのは、その“なんとか”に該当する姿をしている何かに対して興奮するという意味なんだろうから、ポニーテールの女の子を出しておけばメディアミックスで大儲けかというと、そうは単純ではない。なぜなら、萌えは基本的に、“姿から想像されるイメージに興奮している状態”だからである。ポニーテール萌えになるのは、ポニーテールから連想される何かに興奮したり、欲情したりするからだ。

ポニーテールから連想される何に萌えるのか

基本的に中学生、高校生の髪型

  • 若い女の子が好き
  • 男性馴れしていない感じ
  • 処女に対する憧れ

女性らしく、それでいて気が強いという性格を連想させる

  • ショートカットだと女性らしさをあまり感じられなくても、ポニーテールぐらい長いと感じられる
  • 髪をまとめるということは、活動的だということ(長いままだと運動するのに邪魔だから)。活動的な女性は大抵気が強い
  • こういう性格の女性が好きな男性はたまらない

ポニーテールをしている時と髪を下ろした時のギャップを感じることが出来る

  • 少女から大人の女性への変身に感動
  • 女性が持つ二面性に興奮
  • 髪を下ろした姿という、限られた人にしか見られない秘密がある
  • 魔法少女物のツボも多分似たような感じ

 ポニーテールが好きな男性がターゲットだから、ポニーテールの女の子を出しておけばいいだろう、とか、そういう表面的な設定では受け入れられない。ポニーテールに萌えている人たちの、ポニーテールに対するイメージを的確に掴み、それを表現しないと駄目なのだ。
 多くの人々が萌えるキャラクターを作れるクリエイターはどこから出てこようが時代の寵児になれるし、メディアミックスを指向する出版社が欲しがるだろう。ライターを経てクインティという渋い良作パズルゲームでゲームデザイナーとしてデビューした田尻智は、ポケットモンスターを作って押しも押されもせぬ成功者である。

 自分が作った18禁ゲームのキャラクターに萌えキャラはいないとわかった私であるが、じゃあ、少女漫画では萌えキャラが作れるかと問われたら首を傾げるしかなかった。羽根の生えている人間を見ても感じるものがなかったからだ。読者との感性の違いがわかり、自分なりに萌えるキャラクターを出したとしても、果たして受け入れられるのだろうかと考え込んでしまった。

 いろいろ頼まれるが自信を持った答えが出せない、自分はどう考えても買い被られている、小説以外のものを書くことは自分にとってプラスなんだろうかと悩みがどんどん深くなっていく中、見たことのあるアドレスから一通のメールが届いた。

 初めまして。友人に教えてもらって工藤さんのサイトへ来ました。もう夢中になって読んでしまいました。それで、こんな楽しい文章を書ける人と是非一緒にお仕事がしたいと思い切ってメールいたしました。
 私は○○という出版社に勤めていて、プレイステーションなどのゲーム(大概限定版です)に付ける副読本の編集を担当しています。今予定しているのは、□□、△△などの本です。本当に勝手なお願いですが、今挙げた本を工藤さんの切り口で書いていただきたいなと思っています。もしよろしければお返事下さい。

 内容はこんな感じだった。アドレスを見たことがあると思ったのは、@の後ろが某出版社の名前だったからだ。この出版社のサイトに何度かつないだことがあり、それで頭の中に残っていたようである。差出人名の所にはSという名の女性名が書いてあった。
 もうこれ以上抱えきれない、今度依頼されたらどんな内容の仕事でも断ろうと思っていたが、ものすごく熱心なメールだったし、意欲が伝わってきたので、受けるにしろ受けないにしろ、とりあえずこちらの条件だけは伝えておこうと返事を送った。

 メールありがとうございました。○○が出している雑誌、よく読んでいます。△△は特に好きです。よく読んでいる雑誌の出版社の編集者さんからメールをいただくというのは不思議な感じがしますね。
 お仕事の依頼についてですが、僕はプレイステーションを持っていないのです。更に、ここ最近ゲームをやってなくて今のゲームというのはよくわからないのですが、それでも大丈夫でしょうか? また、かなり仕事が重なっていていつまでに書けるというお約束をすることが出来ません。もし、それでも構わないということであれば、僕なんかでよろしければ協力させていただきたいと思います。よろしくお願いします。

 このメールには連絡先として住所と電話番号を書いたのだが、2、3日して○○から私宛に郵便が届いた。封を切ってみると、2冊の副読本と便せん3枚ほどの手紙が入っていた。副読本を脇に置いて手紙を読むと、女性らしく丁寧な字で、私の返事に対する感謝、どうしても執筆してもらいたいこと、プレイステーションはこちらで貸すので問題ないということ、仕事が全部終わったらで構わない、ゲームもこちらで挙げたリストから自由に選んでもらって構わないということが書かれていた。
 よく、俳優がインタビューで、「仕事が一段落したので休もうと思っていたら、監督から直筆の手紙をもらい、この人の映画ならと思ったので休みを延期して出演した」なんていうことを語っていたりするが、彼らの気持ちがよくわかる。猛烈に忙しいであろう編集者がわざわざ手紙を書いてまでやってほしいと言ってきてくれたのだ。過去、いろいろな執筆依頼があったが、この依頼が一番感動したし、今でも忘れられない。
 同封された2冊の本は両方ともオールカラーの豪華本で、キャラクターの設定集や原画、シナリオライターのインタビューなどが載っていた。手紙によると、これにゲームキャラクターが出てくる小説などを載せたいということらしい。そして、キャラクターの設定とか原画とかはそこそこでいい、好きなように企画を立てて作ってもらって構わないということだった。まさに全権を委任されたのだ。

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