2010-5-02 Sunday

実際の殺人事件で使われた犯罪トリック

 この世にトリックが使われたミステリは数多あれど、Q&Aサイトや掲示板などで「実際の事件で使われたトリックはどんなものがありますか?」という質問がされると、だいたい、トリックといえるのかどうなのか、なんともいえない事例がいくつか紹介されて終わることが多い。
 多分、質問者は、「包丁の片側だけに毒が塗ってあり、犯人が果物を半分に切って毒が付着している方を被害者に渡し、同じ果物を食べたのに一方だけが死ぬという不可解状況を作り出す」とか「凍った魚で被害者を殴打し、そのあと、魚を食べて凶器を処分する」といった、明解且つなるほどと言いたくなる、推理クイズ本に出てくるような答えを望んでいると思うのだが、見かけた記憶はない。

 なので私が知っている事例を一つ紹介したい。これは同文書院の『図解科学捜査マニュアル(事件・犯罪研究会編)』という本に書かれてあったものである。わかりやすいように箇条書きにする。

  1. ある殺人事件の犯人がアリバイを作るために、犯行後、知人の家を訪れた
  2. 知人が部屋からいなくなった隙に、部屋にあった時計の針を、後々、問題となりそうな時刻に合わせた(21:00だったのを20:30にしたといった感じで)
  3. 自分のアリバイを証言させるために、戻ってきた知人にあえて「今、何時?」と聞いた
  4. 知人は犯人によって動かされた時計の針を見て答えた
  5. 犯人はまた隙を見て、今度は時計の針を進めて、本来の時刻に戻した
  6. 知人の証言により、「問題となっている時刻には知人宅にいた」という犯人のアリバイが成立した

 え、こんなに簡単なの? という感じかもしれないがこれだけである。しかし、本にはアリバイ証言は善意の第三者によるものであり、警察はこのトリックで作られたアリバイを崩すのに苦労したと書かれており、実際、心理的な面でうまく考えられていると思う(ちなみに、いつどの事件で使われたものかという記述はない)。
 仮に自分が話の中の知人だとして、訪ねたきた人間が自分の部屋の時計の針を逆に回し、そうやって作られた嘘の時間を確認させ、アリバイを証言させようとしているなんてまず考えないだろう。訪ねたきた人間が事件の容疑者だと知っても、彼から促されて時計を見たということはすっかり忘れ、自信満々に「たまたまですが、ちょうど時計を見たから間違いないです」などと証言しそうだ。

 このトリックがもし推理クイズ本に載るとしたら子供向け、しかも簡単なものがまとめられている最初の方だと思うが、それはようするに、フィクションでは初級などと分類される簡単なトリックでも実際にやられたら崩すのは案外難しいということだ。それが、実際の事件で使われた犯罪トリックはという質問に対する答えが極めて少ない理由なのかもしれない。

posted by kudok @   | Permalink

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