『川口浩探検隊シリーズ』を見ていて、猿人バーゴンなどの未知の存在はいつ出てくるのかと手に汗握っているとき、親に「あのな、もし本当に世紀の大発見とかだったら新聞とかテレビにとっくに出てんだろ」と茶々を入れられた思い出のある人はたくさんいるだろう。
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子供の頃は「真実といえるのは新聞にニュースとして掲載されているもの」とは簡単に割り切れず、だったら矢追純一がUFO特番で紹介しているMJ(マジェスティック)-12の文書はいったいなんなんだと熱くなったりするが、年齢を重ねていくと「まあ、つまらないけど、そういうことなんだろうな」と納得してしまう。
↑MJ-12(アメリカ政府内にあるというUFO調査委員会)の秘密文書の一つ。By Wikipedia
しかし、10年ほど前、真実だからニュースにならないこともあるということを目の当たりにした出来事があった。
家で読売新聞の夕刊を読んでいたときのことだ。社会面にある、記者が書く小さなコラム欄で“未解決事件”という言葉が目に入った。
へえ、なんだろうと思ってコラムを頭から読んでいくと、こんな話だった。
記者が居酒屋かどこかでお酒を飲んでいると、隣に座っているカップルの女性がある本の話を始めた。その本には未解決事件の真犯人について書かれているという。そして、どうしてこんなすごいことが書かれているのに新聞はなにも報道しないんだろうと怒っていた。
記者は飲みながらこう思った。
(いやいや、我々もその本に書かれていることの裏を取るための取材はしたんですよ。そして、結局記事にしなかったのにはそれなりの理由があるんです)
10年ぐらい前の話なので、居酒屋、カップルといった細部のキーワードは違っているかもしれないが、
- 新聞記者が
- 隣に(もしくは近くに)いた一般市民が口にした「本に載っている真犯人のことをどうして記事にしないのか」という言葉に対し
- 心の中で「取材はした」と呟いた
という大枠は合っているはずだ。
記事に名前は出ていなかったが、私は女性がいった「未解決事件の真犯人について書かれた本」がすぐに一橋文哉の『三億円事件』のことだなとピンと来た。当時話題になっていたから私以外の人も「あれか」とすぐにわかっただろう。
三億円事件について今更説明するのもあれだが、1968年、白バイ警官を装った犯人にジュラルミンケースに入った現金三億円を奪取され、そのあと、迷宮入りした日本で一番有名かもしれない未解決事件である。
本は後にビートたけし主演でドラマ化もされて、私も見たが、それよりなにより、読売新聞の記者があの本に書かれていたことの裏を取るために取材を行っていたということにびっくりした。どこまで取材をして、どういう結論で記事にしなかったのかはわからないが、あの本のような「これが某事件の真相だ」みたいなものは世の中にたくさん出回っているわけで、もし、読売新聞のような一般紙の記者が一応チェックをしているというのなら、その数だけ「本にはああ書かれていたけど、取材を行った結果、実際はこうだったので記事にはしませんでした」というのがあるわけだ。
これはある意味、(記者が見たものの方が)真実だから記事にはならないものもあるということではないだろうか。
世の中にはいろいろなメディアがあり、あるメディアが「これが真相だ」と声高に叫んでも、他のメディアが無視して、本当はどうなんだろうと、皆、もやもやしていたりする。
世間一般から見て衝撃的な真相が書かれている、未解決事件、超常現象、未確認動物の本について、一般紙がわざわざ「いや、本当はこうでした」と書くのは馬鹿馬鹿しいという見方もあるだろうが、件のコラムに出てきた女性のような疑問を抱いている人はたくさんいるわけで、だからこそ、「本に書かれていることは事実からは遠い」と言える取材を行ったのなら、内容を公開してもらえるとありがたいと思う。
もしそれが書籍という形で出たなら、少なくとも私は確実に購入するだろう。