第14回目の法則 すべて知らないふりをされたら完全に脈なし
シチュエーション
大学の同級生である男女(共に21歳)。入学当初、男は女に一目惚れしてしまい、それからというもの、食事に誘ったり、プレゼントをあげたり、彼女と同じサークルに入ったりと、大変涙ぐましい努力を続けている。しかし、明確な告白は一度もしたことがない。とは言え、端から見れば、どう考えても男が女に気があるとわかる二人である。
夏のある日、男が「今日は行くところまで行くぞ」との意気込みで女を江ノ島花火大会に誘い、246号線に立ち並ぶラブホテルを横目にしながら助手席に座っている女を口説き始めた……。
男
「花火、綺麗だね」
女
「そうだねー。あたし、花火見るの久しぶりだよ。えっと、どこだったかなぁ……鎌倉で3年ぐらい前に見て以来」
男
「へー。あ、でも3年前の鎌倉花火大会って俺も行ったよ。野郎3人でさ」
女
「えー、それって寂しくなかった?」
男
「うん、かなり寂しかった」
女
「彼女とか誘えばよかったのに」
男
「いや、その時、彼女いなかったし」
女
「じゃあ……今はいるんだ?」←男の顔を覗き込むようにして
男
「いたら、おまえ誘わねえって」←ひきつった笑いで
女
「ははは、そうだね」
ここで花火が連発で上がり、しばし女がその光景に見とれる。
女
「わあ……ほんとに綺麗……」
男
「あ、あのさ……」←血圧急上昇
女
「ん?」←ちょっと、頭を傾げながら
男
「おまえもすごく綺麗だよ」
嫌な沈黙5秒間
女
「……」
男
「……」
女
「は?」←この場をすべて冗談にしたいという顔で
男
「俺、今日こそおまえの気持ちを聞きたい。俺のことをどう思ってるのかっていう」
女
「……そんなこと……」
男
「……」
女
「そんなこと急に言われても、答えようがないよ。だって、あたし、竹内君のこと、いいお友達ぐらいにしか思ってなかったし」
男
「でも、俺の気持ちには気づいてくれてたんだろ?」←熱くなる
女
「気持ちって?」
男
「おまえのことが好きっていう……」
女
「全然わからなかった。今初めて知った」←堂々と
男
「今初めてって……だって、去年のクリスマスイヴとかも二人で遊んだし、食事にも何度も行ったし(全部で50回、計15万円分、彼女に奢った)、プレゼントだって、誕生日とかにいっぱいあげたじゃん!(プレゼントの総額、たまごっち、ポケットピカチュー、ミスタービーンのテディベア、G-SHOCKなど、総額20万円)普通わかるだろ!?」
女
「そんなのわかんないよ。だって、好きだなんて言われたことないもん」
男
「好きでもないのに、あんなにプレゼントするかよ、普通」
女
「そんなことあたしに言われてもわかんない」
男
「……」
女
「……」
男
「……」
女
「第一、あたし竹内君のこと、あんまりよく知らないもん」
男
「いや、知らないって……」←プライベートで100回は遊んでおり、学校でも毎日会ってる
女
「それじゃ、あたし今日、友達の家に泊まることになっているから、車降りるね」
男
「……」
女
「ばいばい」
ガチャッ ドン←車のドアが開かれ、閉じた音
場内放送
「ただいまを持ちまして、花火大会は終了いたしました」
「聞いてないからわからなかった」。
会社などで上司に文句を言われた場合、よく出てくる言葉である。
しかし、実際のところは「聞いてなくてもわかっていたけど、めんどくさいからやらなかった」場合も多々ある。この場合、後で文句を言われても「そんなの知らなかった」でごまかすというシナリオが頭の中でがっちりと出来上がっているのだ。
今回の例に関しても、「いくらなんでも気づくだろ」と言いたくなるほど好意の集中砲火を浴びたとしても、決定的な一言を云われなければ「告白されなかったからわからなかった。だから、あなたのことも友達としか思えなかった」で切り抜けるという、見事な自己弁護が炸裂している。
好意に気づいていたということを言ってしまえば、ややこしい展開になるのは確実だし、明確に断らなければならないというのもめんどくさい。しかし、「わからなかった」「知らなかった」と言えば、だから告白されても困る、とその場を切り抜けることが出来る。
実際、プレゼントを大量に贈り、食事を何度も奢って告白に持ち込んだとしても「それってあたしへの好意だったんだ。へー」などと言われて終わる例は多々あるだろう。一線(告白)を越えてこなければ、プレゼントをもらうことも食事を奢ってもらうことも、そんなに嫌じゃない。でも、恋愛感情は間違っても抱かない。男性としては、自分が今、アプローチしている女性からそういう扱いをされていないかどうか一度確かめてみるべきだと思う。