第1回 よくありがちな、読み切り少女漫画のパターン

サイト掲載日 1997年9月17日 エッセイ

 書いたときには別になんとも言われませんでしたが、その後、ぽつりぽつりと「あー、こういう漫画、なんか読んだことあるかもしれないです」とか「最近はこういうの見ないなあ」といった感想メールが届きました。なにしろ昔に書いた文章ですから、現在、「あー、こういう漫画なんか見たことあるかも」と思う人はもういないのかもしれませんが、当時、こんな風に思っていた人間がいたと笑ってやって下さい。


 私が高校の時、妹が買ってくる「りぼん」などの月刊少女漫画誌を暇つぶしに読みながら、いつも思うことがあった。
 例えば、「りぼん」で新人漫画家の読み切り漫画が掲載されたとしよう。
 このキーワード(新人漫画家&読み切り)が揃うと、いつも話が同じなのである。

 まずシチュエーションだが、話の舞台は共学の高校か中学である。
 ヒロイン(漫画においては、わりと普通の名前だったりするのだが、コバルト文庫になるとふりがなを振ってもらわないと、とても読めない名前だったりする)とその幼なじみ(まず間違いなくヒロインとはけんか友達で、お互い名前で呼び合っているのにもかかわらず、仲が悪いなどと言っている)が主な登場人物だ。
 話の始まりはこんな感じである。

「こらぁ~、亮、待てーーー!!」
(ヒロイン『桂木歩美(あゆみ)』、掃除時間中にホウキを持って、幼なじみである『向井亮』を追い掛ける)
「うわっ、歩美がまた切れた!」
(教室を走り回る二人。外野は『歩美頑張れー!』とか『亮、逃げろー!』とか声援が飛び交っている)
「あんた、どうして掃除しないのよっ!」
「したくねぇからだよっ!!」
(亮が、『スキありっ』などと言いながら、歩美にスカートをめくる)
「おっ、今日は花柄の白」
「きゃっ!」
(歩美、顔を真っ赤にしながらスカートを押さえる)
「くやしかったら、追い掛けてみなっ! じゃなっ」
(亮、仲間とともに教室を出ていく)

 実際にこんな二人がいたら、クラスではかなり浮いた存在になると思う。あまりにも目立ち過ぎているのである。
 そして、この後の展開は大抵こうなる。

(歩美、小さい時に亮からもらったハンカチをなくしてしまう。それは、歩美が道で転んだ時に、亮が差し出してくれたものであり、歩美にとっては宝物である)
「もう、どこにいったの」
(歩美、必死になって探すが見つからない。そして道にへたりこんで泣いてしまう。その時、都合良く亮が現れる)
「おまえ、なにやってんの?」
“(歩美の心の中)やだ、亮に泣いているところ見られちゃう……”
「もしかして泣いてんの?」
「探し物していて、目にゴミが入っただけだよ、ばーか」
(歩美はそう言って笑うが、亮、歩美の涙を見て、自分も探し始める)
「俺も探してやるよ、なになくしたんだ」
(そう言いながら、しゃがむ。この時、顔が接近し、歩美の顔が赤くなる。この時生じる擬音は大抵『とくん……』である。これは心臓の鼓動の擬音だと思われる)

 起承転結の「承」で、ヒロインは彼に「男」を感じる。
 ただの幼なじみから気になる存在への変化とでも言おうか。
 顔が近づいたり、ちょっと優しくされたぐらいで、心境の変化なんかあるのかどうか、男の私からはなんとも言えないのだが、短編ゆえにここで長いエピソードは挟めないという事情もあるだろう。
 そして「転」である。ここはもう定番中の定番の展開が待っている。

「桂木さん」
(あまり友達とは言えない、クラスの女子が話し掛けてきた。まあ、これは読み切り少女漫画全般に言えることなのだが、ヒロインの友達ってほとんどいない。まあ、あれだけ男とじゃれ合っていれば、同性の友達を作ることは不可能に近いだろう)
「はい?」
「桂木さんって、向井君と付き合ってるの?」
「ば、ば、馬鹿言わないでよっ! 誰があんな奴と。あたしと亮はただ、幼なじみっていうだけ!!」
(この台詞の前に『かあぁぁっ(痰を吐いているわけではない)』という擬音と共に、ヒロインの赤い顔が描写される)
「そっか……。じゃあ、別にあたし、向井君に告白してもいいんだ」
「え……」
(擬音『とくん』)
「今まで桂木さん、向井君と付き合っていると思って遠慮していたけど、あたし向井君のこと好きなの。だから、今度彼に告白するつもり」
(歩美、やや怒った口調で)
「ど、どうぞ、御勝手に。あたし、関係ないもん」

 恋のライバル出現である。この存在を出さないと、ヒロインも男もお互いの気持ちを確認出来ないのである。ライバルにとってはほんと、いい迷惑だ。
 そして最後。予定調和が炸裂する。

(歩美、ライバルが亮に告白しているシーンを見る。真っ赤な顔して泣いているライバル。そんな彼女の髪を撫でる亮。歩美、自分が失恋したと思い込み、その場からオーバーに立ち去るが、その姿を亮に発見される)
「歩美っ!」
(亮、歩美を走って追い掛け、彼女の腕を掴む)
「なによっ!」
(歩美、泣きながら、亮の顔を睨む)
「見てたのか……?」
「……」
(擬音『こくん……』)
「か、彼女とお幸せにねっ」
 歩美、亮から目をそらし、彼の手を振りきって逃げようとするが、亮、歩美を抱き寄せる。
(擬音『ふわっ……』
「り、亮……」
「……俺、歩美のこと、好きだ」
「……えっ?」
「さっき、あいつに告白されて、それで俺、おまえのことが好きだっていうことがはっきりとわかったんだ」
(亮、歩美を見つめながら髪を触る。擬音『くしゃっ……』または『さわっ……』)
「亮……」
(歩美、亮の胸に顔をうずめて泣く。コマの左隅ぐらいに『わたしも……好き』というような台詞が出る)

(しばらく余韻のコマが続いた後、最後のページは必ずこう)

「歩美……」
「……なに?」
「おまえ、意外と胸大きいな」
「……ば、ばかっ!」
(歩美、亮を叩こうとする。背景は真っ白で二人しか書かれていない)

 おわり

 以上である。
 これはもう、読み切り少女漫画の方程式とでも言うしかない。だが、読者側が新人漫画家に要求する規定演技という考え方も出来る。こういうストレートな話を連載で展開するというのはなかなか難しいが需要はあり、欲している人は読み切り(新人賞受賞作)からスタートする新人漫画家に期待する、そのためによく見る=ありがちになるという部分があるのかもしれない。

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