第11回 天体望遠鏡

サイト掲載日 1998年11月17日 エッセイ

 私は子供の頃、矢追純一のUFOスペシャルをおそらくすべての回、見たおかげで、今でもUFO関連の話が大好きですし、同時に宇宙というものも好きです。惑星探査機が何年もかかってお目当ての惑星に着陸したというニュースを見るとわくわくしますし、早く、どこかの宇宙人がボイジャーに積まれた手紙を見て、地球にやってきてくれないかと日々願う毎日を送っています。
 そんな私には昔、どこかで手に入れた望遠鏡のカタログを眺めながら、いつか口径20センチぐらいの望遠鏡を買って惑星を見ようと夢見ていた日々がありました。「月の小遣いとお年玉を積み立てていけば10年後ぐらいにこれが買える!」と、ものすごい値段の望遠鏡に丸を付けていたりしましたが、月の小遣いは『ディグダグ』のプレイに、お年玉はLSIゲームなどに化けてしまい、望遠鏡購入には結局至りませんでした。
 今回は、そんな似非天文少年が、ふとしたきっかけで望遠鏡購入の夢を思い出し、実際に買いに行くお話しです。


 専門学校をやめて、初めて迎えた夏。友人たちが車を購入して彼女といちゃいちゃしている中、私は遺跡発掘のバイト(大学が出来るというので更地になった場所を、ただひたすら掘りまくる仕事。このバイトをやって唯一の収穫は、神奈川県の土地を掘っていくと、富士山の火山灰が出てくると知ったことである)をひたすらやっていた。
 夏の炎天下、ちょっとおかしくなってしまう人も多少いて、「うおおおおおお」とか「バカヤロー!」とか、誰に向かって叫んでいるのかよくわからない罵声が飛び交う、壮絶な職場であったことを記憶している。
 日給7000円ほどのバイト代は、ほとんどライブのチケット代か音楽機材に化けたが、なぜか一度だけ高尚なものに化けたことがある。
 それは天体望遠鏡だ。
 なぜ天体望遠鏡だったのか、今の私にはよくわからない。ただ、あまりにつらいバイトの日々を過ごしていく中で、星空にロマンを求めたとしてもそれは笑えないだろう。

「あ、いらっしゃいませ」
 店員は私の姿を確認すると、あくびをかみ殺して、そう言った。
 天体望遠鏡をどこで買うか迷った私は、偶然、渋谷のヨドバシカメラ最上階(?)で天体望遠鏡フェアが開催されていることを知り、そこへ行ったのだ。
 店員は2人で客は私一人。あまりの場の寒さに、怖くなって帰ろうとしたが、声を掛けられてしまうとなかなか足が後ろに動かない。
「どうぞ、こちらへお入り下さい」
 店員に言われるがまま、私は来てしまったことを後悔しながらテントの中に入った。
「それでは、これからプラネタリウム上映会をやりますので」
「……はあ」
 どうやら、家庭でもプラネタリウムを見られる装置を販売しているらしく、それの見本上映を天体望遠鏡フェアとセットでやっているようだった。
「星とか詳しいですか?」
 店員が和ませようという意識からか、軽い口調で話しかけてくる。
「いや、そうでもないんですけど……」
「そうですか。えっと、それじゃ**君、セットして」
「はい」
 **君の返事と共に、部屋が暗くなりテントの上部に点々と灯りがともる。
「えーと、この星なんだかわかりますか?」
 店員は、棒を使って一つの灯りを指した。
 なんだかわかりますかと、いきなり言われてわかったら、こんな所には来てないだろう。
「……いやぁ……わかりません」
「これはアンタレスです」
「……はぁ」
「それじゃ、この星座はわかりますか?」
「……」
「……」
「……さぁ」
「これはさそり座です」
「……はぁ」
「それじゃこの星座は?」
「……」
「……」
「……さぁ……」
「しし座です」
「……はぁ」
 きちっとしたマニュアルがあるらしく、店員は私の無知をまったく考慮しないまま、次から次へと星を指していく。せめて、星が線でつながっていれば、星座の名前ぐらいはわかったかもしれないが、天の川みたいな所を指されても、なにをどう捉えて答えればいいのかさっぱりわからない。

 結局、この密室でのイベントが終わったのは、始まってから30分後のことだった。

 私はぐったりとした気分で、29800円の天体望遠鏡を買った。エロビデオを借りに行ったら、裏ビデオの試写を1日見せられたような気分である。

 次の日の夜。とにかく天体望遠鏡を組み立てて妹と共に星を見た。
「えーと、土星は……あ、あれか」
 天体早見表を見ながら土星の位置を確認し、そこに望遠鏡を向ける。望遠鏡を買ったら、まず土星を見ようと決めていたのだ。あの神々しいまでに美しいリングを是非、この目で見てみたい。そうすることによって、日々の苦労が癒される気がしていた。望遠鏡を買ってよかったと、心底思うに違いない。
 必死になって望遠鏡の位置を調節していると、土星の姿が飛び込んできた。

ものすごく小さい土星

 一週間後、望遠鏡は私の手によって分解された。

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