第12回 昔書いた推理小説

サイト掲載日 1997年11月15日 エッセイ

 映画でも小説でも、よく「人間が書けていない」ということが批判の対象になります。どう書けば人間が書けたことになるのか、それは読者の間でも千差万別であり、マニュアルも公式も当然存在しないので、誰しも納得する形で人間を書くということは大変難しいのです。
 私が文章(推理小説)を書き始めたのは小学校5年生の頃でしたが、こうすれば密室が作れるとか、密室から絵を盗み出せるとか、そんな方法を書くことに夢中で、人間を書こうなんていう気はさらさらありませんでしたので、全員が作者の都合に応じて機械のように喋っていました。今回は、当時書いた“そんなふうな話”です。


 また、いろんな意味で凄い作品が発見された。
 小学校5年の時に書いた、処女作『消えた名画』(推理小説)に続く、第二作目である。
 ご存知の方も多いと思うが、私は推理小説から小説を書く道へ入った。影響された作家はアガサ・クリスティで、彼女の『そして誰もいなくなった』は永遠のバイブルだ。
 小学5年から推理小説を書き始めた男。そういう意味では早熟と言えるのかもしれないが、今回発見された作品を読む限り、早熟と言うより、若気の至りと言えるかもしれない。参考までに書いておくと、一応、中学3年で史上最年少の江戸川乱歩賞受賞を予定していたが、受賞する以前に原稿用紙を350枚も買う金がなかった。
 さて、今回紹介する作品だが、もし、私がここまで書き続けていなければさっさと燃やされていただろう。それほど、どうにも救いようのないものだ。
 400字ずつ(普通の原稿用紙1枚分)ぐらい載せていき、適当に突っ込んでいきたいと思う。全部で4枚分しか残っていないが、もうそれで充分だと思う。なお、掲載にあたり原稿の内容を忠実に再現した。

 列車をガードしてから早くも1年がすぎた。竹内は工藤のしょうかいでアメリカのシカゴにきゅうようでいった。もちろん、あいぼう工藤は、しっかりついてきた。ある時竹内はエドロードという車いすにのった、ろう人と友だちになった。
「やあ、あなたが竹内探偵ですね? うわさは、きいております。となりにいるのは工藤社長じゃないですか」とろう人は、あかるい声でいった。
「私の名前をおもえててくれてこうえいです」と工藤は頭をペコリとさげた。
「まあそんなかたくならないで、どうです私の家にとまっていきませんか? とてもすばらしいとこですよ」エドロードはやさしい声をかけた。
「それは、こうえいです。では3日ばかしとまらせていただきます」
 竹内はホッとした声でいった。

 英会話のテキストの訳文のような文体だ。
 まず、小学校5年生のわりに、随分と漢字が少ない気がする。せめて、『ろう人』はやめようよ、と言いたくなる。
 そして、エドロードとはなんだろうか? これは単純にエドワードと書きたかったのだろうと思う。
 登場人物の竹内と工藤が、いかなる理由でアメリカに行ったのかもよくわからず、エドロードがどういった経緯で彼らの噂を聞いたのかもよくわからない。
 そして、他人の家に泊まるという時、「では3日ばかし」と言うというのはどうだろう。かなり図々しい。

 一時間もすると、広い家についた。
「やーこれはひろい。ぼくの家の二倍はあるなーところでざいさんはどのくらい?」
工藤はびっくりしたようすでいった。
「全ざいさんは、120兆円です」
「それは、それは、では、そのお金はどこに?」
「長男と次男とあとつまに」
「ほう三とう分しても40兆円ですか。ぼくだってぜんざいさいはせいぜい40兆円ですからねえー。それではい分はどうなっているんですか?」工藤はめずらしそうにいった。
「つまに、1兆円、長男に9千億円、次男が5千億円です」エドロードは自信たっぷりにこたえた。
「それはずい分すくないですねえーほかのお金はどこに?」
 竹内はききかえした。
「あとのお金は、シカゴにきふしたいとおもっています」

 なぜか、財産の話から遺産配分の話になっている。知り合って間もない人にいきなりそんな話を振る勇気は、普通の人にはなかなかない。かなり失礼な話だ。
 そして財産。120兆円ってのは、いったいなんなんだろう。国家予算だろうか。エドロードが、いったいどうやってそれだけのお金を稼いだのかもよくわからず、私がなんで40兆も持っているのかもわからない。
 100兆も寄付されるシカゴ市は、エドロードに何をしてあげたのだろうか。

「それはすごい」
 工藤はあっとうされたようだった。
「あーあ今しょうかいします。これがつまのリンダ、長男のカーター、次男のレッドフォードです」
 3人はペコッと頭を下げた。
「しつれいですが、おこさんのおとしは?」と工藤がきいた。
「長男は、21歳で薬品工場の社長、次男はNMA世界ヘビーきゅうのチャンピョンです」
「なんのチャンピョンですか?」
 工藤すこしまえかがみになってきいた。
「プロレスラーをやっております。ジャパンのジャイアント馬場とやったこともあるのですよ!」
 エドロードは自信たっぷりにいった。
「じゃあわたしたちのしょうかいをしましょう。私は、工藤石油会社の社長をやっております、工藤圭と申します」

 自己紹介が凄い。リンダはいいだろう。しかし、カーターとレッドフォードは、名前ではなく名字である。3人とも頭を下げる辺り、日本の風習を研究していたのだろうか。
 40兆円の資産を持つ私の会社の名前が『工藤石油会社』。ほとんど有限会社の名前だ。

 こういって工藤はめいしをだした。
「わたしは、私立探偵をやっております、竹内ともうします」
 といっておじぎをした。
「ねえーミスター竹内、あなた、たんていなら、事件いろいろあったでしょどんなのあった?」
 とレッドフォードがきいた。
「あんまりないけど、一年前、列車の中の名画がなくなってしまって、それをかいけつしたことがあるんだよ」
 竹内はすこしてれくさそうにいった。
「ふうんあたまはわりといいんだ」と言ってなにやらノートに書いている。
 竹内は、すこしぎもんをもったが、くちにはださなかった。
「こんどは、私のへやをおみせしましょう」とエドロードは、自分のへやにいった。
「ほうこれはすごい。カーペットにもなかなかいいきじをつかっておりますなあ」

 ここで原稿は終わる。
 とにかく、ひどい出来だ。梨田先生(仮名)が学級通信に私の作品を載せなかった理由も、今ならわかる。
 ちなみに、処女作の『消えた名画』の裏表紙には“30円”と書かれている。

 売るつもりだったらしい

手書きの原稿

これが問題の原稿。小5というのは、昔、整理した時に書いたものだろう。

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