第13回 俺は田原総一朗 ~恋のキューピット編~
サイト掲載日 1999年2月25日 実験小説
相手の本音を聞き出す会話方法というものがあるのなら、田原総一朗さんの話し方はそういうものかもしれません。相手が「私は議員になる前から、このような問題について心を悩ませておりまして、その件に対してビラを作って配ったりして……」と、結論を、その結論に至った要因の最初から話そうとする(このような場合、前置きが長いためにその前置きに横槍が入り、話が別の方へ流れやすい)と、「いや、そんなことはどうでもいいから、やるのかやらないのか、それだけはっきりさせてください」とショートカットさせるのを見るにつけ、「自分の中には秘密、あるいは言っていることとは別の本音があって、その秘密(本音)を実は人に話したいんだけど、簡単に話すのは嫌だし……」と考えている人と対談したら面白いだろうなあと思っていました。
今回は、そんな思いを文章で現実化しようとした話です。
田原
「でね、単刀直入にお伺いしますが、あなたはどう思ってるわけなんですか? ……え? もう時間、時間がない? どのくらいあるの。えっ? うん。3分。3分ね。わかった、それじゃ、手短にお願いします」
男
「はぁ……ま、なんていうか、初めて会った時はそうでもなかったんですけど、飲み会の時に酔っている彼女を見ていたら守ってあげたいと思ったっていうか……」
田原
「いや、守ってあげたいとかそういうのは、どうでもいいわけ。ようは、あなたは彼女とどうなりたくて、どうしたいかっていうことを我々は聞きたいわけですよ」
男
「いや、だから、なんていうか付き合ってほしいっていうか……」
田原
「付き合ってほしい。はい。あなたは彼女と付き合いたいわけですね。わかりました、ようするに、あなたは彼女と付き合ってSEXしたいと、そうおっしゃりたいわけですね」
男
「いや、SEXしたいっていうか……」
田原
「『っていうか』とか、そういう下手な誤魔化しつけてたら、相手に伝わることも伝わらなくなりますよ。ようするに、あなたは彼女と付き合って、ゆくゆくはSEXしたい。そうなんですね? 念を押すけどSEXしたいんですね」
男
「はぁ……」
田原
「で、あなたの答えはどうなんですか?」
女
「……田中君のことはすごく大切な友達だと思ってるし……気持ちは凄く嬉しいんですけど……」
田原
「いや、大切な友達とかそんなことどうでもいいから、要点だけ、えっと、付き合う気があるかどうか、これだけ言って下さい」
女
「はい……あの……田中君と一緒にいると楽しいけど、恋人として付き合って今のいい関係を壊したくないっていうか……それに、あたし今、仕事が楽しくて男の人と付き合うっていうのは考えられないし……」
田原
「あのね、まどろっこしいんですよ。ま、いいや。今の関係とかそういう難しいことはよくわかんないけど、つまり、仕事が楽しいから田中君とは付き合えない。じゃ、仕事が楽しくなくなったら付き合えると」
女
「いや、それはちょっと……」
田原
「じゃあなんですか。はっきり言って下さいよ」
女
「……っていうか……今は付き合えないっていうか……」
田原
「わかりました。まとめると、今は付き合えない、でも、将来的には田中君と付き合う可能性があるっていうことね」
女
「……そうは言ってなくて、いや、どう言うんだろ……」
田原
「どういうもこういうも、そんなまどろっこしく断り方するから、こういう解釈しか出来ないわけ。ようはあなた、趣味じゃないわけでしょ。田中君のこと。最初からそう言えばいいんですよ。理屈こねくり回してもみんなわかってんだから。趣味じゃない部分が顔なのか、なんなのかはわからないけど」
女
「まあ、そう言ってしまえばそうなんですけど……」
田原
「そう言ってしまうもなにも、そうなんでしょ。そうなんですよね。もう一度はっきり伺います、あなたは田中君のことが趣味じゃない」
女
「はぁ……まあ……」
田原
「じゃ、まとめて、もう一度お聞きします。田中君と付き合う気はあるんですか、ないんですか」
女
「田中君のことはすごくいい人だと思うんですけど……」
田原
「いや、前置きはもういいから、ずばっと」
女
「……ありません」
田原
「ないのね、もう絶対ないんですね」
女
「はぁ……」
田原
「理由は趣味じゃないから」
女
「まぁ、はっきり言うと、ええ……」
田原
「あなたは田中君のことが趣味じゃないから付き合う気はない、これでいいですね?」
女
「……はぁ」
田原
「わかりました。それじゃ、今回の田中君の告白は失敗ということでまとまめます。……あ、もう時間? じゃ紳助さんにお返しします」
-完-