第15回 黒バック赤フォントの話(3/3)
サイト掲載日 2001年5月17日、18日、21日 エッセイ
あとがき
5月17日、18日と、近頃、ネットでよく見かけるスタイルで物を書いてみた。
自薦系リンクページで「アングラ風爆笑日記」なんていう感じのサイト紹介を見て、(ほうほう、自分で爆笑というんだから面白いんだろう)と思い、行ってみると、判を押したように黒背景にセンターリング赤フォントが出てきて、(うわ、またこういうのだ)と肝心の文章を読む前に笑ってしまう。
このスタイルが書き手と読者にこれほどまで広まっているのは、当然のことながらいくつか理由があると思う。
書き手側の理由
- 自分が面白いと思ったスタイルだから単純に真似をしている
- 行間を空けてフォントをいじられなければ面白くならないと頭に刷り込まれた
- 好きな作者と同化することで自己満足したい人が多い
- ああいう風に書けば、アクセスが増えると思っている
読み手側の理由
- 単純に面白いから
- あのスタイルに衝撃を受け、ああいう日記を探しまくっている
- 字数が少ないし、字が大きいので普通の日記より読むのが楽だから
- みんなが読んでいるからとりあえず読んでいる
読み手は常に新鮮で面白いものを求めているから、どういう理由でも特に問題はない。
ちょっと問題があるのは書き手だ。
実際に書いてみて思ったが、黒バック赤フォントは麻薬に近い。使うと劇的な効果があるが、ありすぎてやめることが出来なくなる可能性がある。その劇的な効果とは「大して面白くないネタをも面白く見せてしまうことが出来る」というものだ。
映画館で流される予告が、もし、
ジャッキーが飛んだ。ジャッキーが吠えた。ジャッキーの最高傑作ついに登場 配給収入全米ナンバー1 「この映画を見ない奴は死ね」ローリングストーン誌 「ジャッキー最高」プレイボーイ誌 「こういう服を着る人って、結構おばさんっぽい人が多いんだけど、この方は割合さっぱりと着こなしているっていうか、そんなにケバケバしい感じがしないからいい(以下略)」ピーコ
と一画面で出てきたら、わけがわからないし、面白くもなんともないだろう。
ジャッキーが飛んだ
ジャッキーが吠えた
と、一行ずつ出てくるから次はなんだ次はなんだと、どんどん期待が高まっていくのである。
黒バック赤フォント行空けは、横書き+フォント変更可能というネットの特性を活かし、この効果をうまく利用しているスタイルだ。
しかし、すっぴんにならないといけない場所へ出された時、面白く見せられるかというと、それはかなり難しい。
物書きになりたいという高校生がこのスタイルから入ってしまった場合、将来、文章を普通のスタイルで面白く書くということが出来なくなるのではと思う。文字を大きくしたり行間を空けないと、不安でたまらなくなるのではないか? だが、黒背景赤フォント行空けスタイルで物を書かせてくれる出版社など(多分)ない。
もう一つ。
黒背景赤フォント行空けスタイルはあまりにも速く、しかも爆発的に広がりすぎた。私のように、このスタイルを見て(あ、まただ)と思う人は結構いるだろう。
集客力は確かにあるが、「スタイルを見ただけで立ち去ってしまう人も出てきた」、もっと突っ込んで言ってしまうと「もろに大流行に乗っている人を見ると、恥ずかしくなってしまう人間もいる」ということを、これからネットで物を書こうとしている人は頭に入れておいた方がいいと思う。
今の一部文章系を私の年代でわかりやすいように喩えるなら、「塾の教室に入ると、女子がみんなセーラールック」という感じか。
一人一人はそれなりに可愛く見えるけど、集団として見るとほとんど(自主規制)だ。
化学調味料をごてごて使った料理もいいけど、生の素材を美味しく食べさせてくれる、才能ある板前さんの出現を待ち望む今日この頃です。