第3回 國學院大学で週刊少年ジャンプを読んだ日(5/5)


「速達でーす」
 意表を突かれた。そうだ、速達は郵便屋さんから直接渡されるんだった。
 私は極めて平静を装いながら、玄関へ向かった。そして扉をゆっくりと開けた。
「はい、どうぞ」
 郵便屋さんがそっけない態度で、私に一通の封筒を差し出す。
「……」
 その封筒を見て、どうにも悪い予感がした。
 大きさが明らかに普通サイズなのである。しかも薄っぺらい。
「あ、どうも」
 しかし、私は変わらずに平静を装って封筒を受け取り、すぐさま、部屋に戻って封筒を見た。

(落ち着け、まだ不合格と決まったわけじゃない。……そうだ! 合格電報みたいに、カタカナで短く、『ゴウカク』と書いてある可能性もあるぞ)

 私はそう言い聞かせて、思いきって封筒を開けた。

入学試験の結果について

学部・学科 1部 ブン学部 ブン学科
受験番号 71748 性別 M 科目別得点

国語 33

あなたは、上記学部学科の入学試験を受験されましたが、残念ながら不合格となりましたので通知いたします。

なお、論文も含め、総合的に検討しましたが、合格基準に達しませんでした。

「……」
 33点。いったい、何点満点でこの点数なのだろうか。
 頼みの綱だった小論文は、合格判定にあまり関係がないらしく、扱いが小さい。終わったのだ。すべてが。無残に……。正確に言えば、魔法のグリデン解釈という本と、それに芸もなくすがってしまった屈辱だけは残った。

 その日の夜、「チョコとカステラ」に出てくる伊集院君(仮名・当時大学2年生)がうちにやってきた。
「工藤、どうだった? 今日、合格発表だったんだろ?」
 私は彼の言葉に、うなだれながら破られた封筒を見せた。
「……」
 伊集院君も無言でそれを見た。私のことを思いやって何も言わずにいてくれているのだろう。やはり小学校から付き合いがある友人は違う。
「……この封筒さ」
 不意に伊集院君が言葉を発した。
「感熱紙みたいので出来てるんだな、ほら」
 伊集院君はそう言いながら爪で、封筒の、文字がタイプされている面をひっかいた。黒くて細い線が走る。
「やっぱそうだ。ひでえな、こんな大量生産出来る封筒使うなんてさ。多分、不合格ってう判子みたいのをずっと押していったんだよ。不合格とは言え、こんな封筒で結果もらっちゃ、工藤傷ついたろ」
「……」
 私は、彼に一言言いたくなった。

「俺を一番傷つけたのは、おまえのその言動だ」と。

 その後、『虞美人草』が夏目漱石の著作だということがわかり、テストは100点満点であることを知った。
 そして風の噂で、青学をいっぱい受けた内山君が3つめの試験を受けた時点で、倒れてしまったことを聞いた。

 恐るべき大学受験。

 最後に、私はこのページを読んでいる、すべての受験生の方に言っておきたい。

「魔法のグリデン解釈」にすべてを託すのはやめた方がいい、と。

 -完-

不合格通知書

探したら出てきた。懐かしいなぁ。

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