第7回 食わず嫌い

サイト掲載日 1997年10月16日 エッセイ

 誰しも、食わず嫌いな食べ物というのはあると思います。そして「食べられない」理由もまた千差万別。
 このエッセイ発表後、「へー、そういうもんかあ」というようなメールをたくさん戴きました。ついでに書いておくと、僕はミートボールも食べられません(でしたが、最近になってようやく克服)。ハンバーグが丸いっていう事実が気持ち悪いのと、たまにあんかけみたいにドロドロしたものがかけられていて、あれが駄目なのです。あのてかり具合が。


 26年間生きてきて、どーしても食べられない物がいくつかある。
 まずはメロンパン。あの固そうな表面&緑色のパンというところが、もう駄目だ。だいたいなぜパンが緑色なのだ。それがおかしい。はっきり言って、気持ち悪くて実物に触ったことすらない。
 次にビーフシチュー。過去、2度だけ食べたが、そのたびに「鉄の味」がしてもう食べられなくなった。見た目はあんな美味しそうに、なぜあんな変な味なのだろうか。
 そしてハッシュドビーフ(ハヤシライス)。
 我が家で15年ほど前に出たが、見たとき大好きなカレーライスだと思い、
(うわあ、カレーだ、いただきまーす!)
 とご機嫌で食ったら味が全然違くて吐き出した。
「なんだこれ!? いつものカレーじゃないぞ!!」
 私は思わず叫んだ。ちなみにいつものカレーとは、ハウスバーモントカレーなのであるが、それはともかく、この時初めて食べたハッシュドビーフというやつは、とにかく気持ちの悪い味がした。思い出したくもない。それからというもの、レストランなどで見るたびに、
(けっ、このカレーもどきがよ)
 と心の中で吐き捨てている。

 しかし、これまで挙げたものは、彼女が作ったり、結婚相手が作れば、どうにか食べてもいいかなと思えるものである。ハッシュドビーフは水で確実に流し込むだろうけど。
 これらの食品を超える、人がこれを食べているのを見ている時点で、目をそらしたくなるような、私にとって史上最悪の食べ物が一つある。
 好きな女の子と横浜中華街に行ったとき、この食べ物を死んでも食べられないという話をしたのだが、その時、彼女は「じゃあ今度作ってきてあげるよ。絶対美味しいから食べてみて!」などとお気楽に言った。その時は私も、
「そうだなぁ、おまえが作るんなら食べられるかもな」
 などと調子のいいことを言ったのだが、内心は、

 頼むからやめてくれ

 という心境だった。
 好きな女の手作りでも駄目。これほどまでに嫌いな食べ物。その名は

 茶碗蒸し

 いまだかつて食べたことがないし、この先も食べることは絶対にないだろう。なぜそうなったのかは、十数年前のあることがきっかけである。
 私がまだ小学生だった、ある日の日曜日。冷蔵庫にプリンを発見した。
「あ、これ食べていい?」
 台所にいた亡き母に言うと、
「駄目よ、それは夕飯に出すんだから」
 と私を制した。
(夕飯にプリン? 夕飯にデザートがつくなんて珍しいな)
 そう思いながらも、納得して夕飯を待った。

 そして夕飯時。
 その「プリン」は確かに出てきた。
 湯気を元気よく噴き出しながら。

「このプリン、湯気出てるよ」

 これって新しいプリンの食べ方なの? 私がそう言おうとしたとき、母は言った。
「それ茶碗蒸しよ」

 この時以来、茶碗蒸しがどうしても温かいプリンに思えて、そういう味の想像をしてしまいどうしても食べられない。
 私の友人たちにこれを話しても、「あー、そう思えばそう見えるけど、でもおいしいんだけどねー」と言うばかりで、賛同者が全然いない。
 広いインターネットの世界には、同じような理由で茶碗蒸しを食べられない人がきっといると思うのだが……。

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