第17回 湘南物語 ある高校生の青い文通(3/6)


 そしてクリスマスイヴがやってきた。15年生きていてろくな思い出がなかったイヴだが、この年は違った。
 配達日指定小包で、プレゼントが届いたのである。勿論、彼女からのプレゼントだった。もらえるとはわかっていても、いざもらってみれば、やはり嬉しいものだ。しかもこの後、誕生日(1月26日)、バレンタインデー(2月14日)とイベントが目白押しだ。これから先、どれだけの幸せとプレゼントが俺を待っているのだろうか。そう考えるだけで、不毛な中学時代を忘れることが出来た。
 プレゼントは「靴下」だった。一緒に手紙も入っていて、その手紙に書かれてある文章は、現在でも「俺が体験した名セリフベストテン」の第6位にランキングされている。

 このくつ下で本当のサンタさんを待ってください。本当のサンタさんになれなくてごめんなさい

 なんとじーんとくる台詞だろうか。当時、私の心を川原正敏の「パラダイス学園」と共に癒していた中西やすひろの「めぐり愛ハウス」で、ヒロインの薫ちゃんが裸体にリボンを巻いて「わたしがプレゼント」とかなんとか言っていたが、あれに匹敵する感動があった。
 彼女に宛てた手紙に、「これからは麗華って、名前で呼んでいいか?」という、明らかに調子に乗ったことを書いたのもこの頃だった。そのことに対する返事は、「うん、いいよ」だったと思う。 
 女の子を名前で呼ぶというのは私の夢だった。ドラマだと、たとえば山田やま子という女の子と知り合うとその子が「やま子でいいよ」と言ったりするのに、現実社会、少なくても私の身の回りではそういう会話は全くなかった。
(俺も“由美”とか“陽子”とか名前で女の子を呼んでみたい)
 だがそんな風に呼んだら絶対に変な噂が流れただろう。ああ、いつになったら俺は女の子を名前で呼べるのだと思っていたところに、彼女がOKしてくれた。もう大変なことである。
 ちなみに、有言たまに実行型の私は、自分の願望を叶えるため、中学時代、隣の席の女の子に「おまえはこれから、俺のことを名前で呼べ。俺もおまえを名前で呼ぶ。少女漫画方式だ」などと、わけのわからない提案をしたが、その提案の実行は一日で終わった。

 ところで、今改めて冷静に考えてみると、私は彼女にクリスマスプレゼントをあげたのだろうか、という疑問が湧いてきた。 
 一応、覚えているのは彼女に「テレホンカード」をプレゼントしたことだ。ただ、これはいつのことだったかまでは覚えていない。 
 彼女の趣味の一つに、「テレホンカード」集めというのがあって、彼女から電話で「工藤君からのプレゼントはテレホンカードがいい」とかなんとか言われた記憶がある。ということはやはりクリスマスプレゼントとしてあげたのだろうか。それとも誕生日プレゼントか? 
 どちらにしても、問題なのはそのプレゼントするテレホンカードを小田急の駅の売店で買ったということだろう。今、思うと、もうちょっと気の利いたところで買えなかったのか? と思う。

 さて、幸せのクリスマスイヴからさかのぼること5日、私はもの凄い体験をしてしまった。そしてこの体験が、その後の麗華との関係をおかしくさせる原因となるのだが。

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