身の回りの出来事系エッセイ-11 バイトの面接

1998年9月10日執筆


 私はいわゆる「就職」というものを一度もしたことがない。これは、別に「ボク、大人になりたくないの……」と思っているからではなく、「就職したら、きっと安定した生活に身を委ねてしまい、作家になるという夢は綺麗さっぱり消えてしまうだろう」という思いからなのだが、バイトの面接を受けて、採用がすんなり決まるのは20代前半までで、25歳を超えてくると途端に難しくなった。

 関東近辺にいくつかのチェーン店を持つ某ファミコンショップ。はっきり言えば、ビスコ(子供の顔が書いてある箱が特徴的な、お菓子ではありません)という店にバイト面接に関しての問い合わせをした時のことだ。
「はい、ビスコ**店です」
 年の頃は30前後だろうか。ちょっと低い、いかにも店長っぽい声をした男が出た。
「あ、もしもし。バイト募集の広告を見てお電話したんですけど」
 私の手元には、新聞の日曜版に織り込まれている求人広告の1枚があった。バブル絶頂期と違い、時給の高い仕事(主に製造業)は少なくなってしまったので、どうしても接客業などに狙いを絞ることになる。
「はいはい、えーと、それじゃお名前をお願いします」
「工藤と申します」
 店員の言葉に、私はよそ行きの声でそう答えた。「圭」までを言うと、また説明が長くなる(エッセイ&日記ベスト参照)ので省略した。
「工藤さん……っと。失礼ですがおいくつですか?」
「あ、25歳です」
 私の言葉に、店員は鼻で笑いながら言った。

25(笑)

 なにがそんなにおかしかったのかはよくわからないが、後にも先にも、年齢を言って笑われたのはこの時以外にない。
「ははは、25歳ねぇ、25でファミコンショップって……」
 25歳でファミコンショップがそんなにおかしいのなら、あんたの存在はなんなんだと言いたくなったが、とりあえずやめといた。
「失礼ですが、こちらの時給御存じですよね?」
「はぁ。確か700円でしたよね」
「そうですそうです。25歳になって、700円の時給なんかじゃやってけないでしょ?」
「いや、それでも掛け持ちするのでなんとか……」
「ふーん、掛け持ちねぇ。それじゃまあ、とりあえず面接するだけしてみますか? まあ、はっきり言って、難しいとは思いますけどね」

 結局、私は翌日、面接を受けに行き、案の定落とされた。

 こんなこともあった。

「あ、もしもしアルバイトの募集広告を見てお電話したんですけど……」
 電話先は某大手スーパー内(はっきり書くとダイエー)にある某書店。この時点で、ライター業は全滅(履歴書がそのまま戻ってくる)、編集業も全滅(自然食品を扱っている会社の、会員向け新聞の編集という仕事の面接に行ったら『普通の牛乳なんてカルピスと変わりない。君にこの違いがわかるか』という話を延々とされ、『君の履歴書の字を見る限り、手書きで発行しているうちの新聞ではとても使えない』と言われた挙げ句、『だいたい編集が好きとかいうレベルで来られても迷惑なんだよ』というだめ押しをされ、落とされた)という状況で、せっぱ詰まっていた私は、一縷の望みを託して連絡をした。
「はいはい。学生さんですか?」
「いえ、フリーなんですけど」
「あ、フリーターの方ね。それで年齢は?」
「25歳です」
「ああ、25歳。それじゃ、とりあえず面接に来て下さい」
 話はあっさりと終わり、私は翌日、面接へ行った。
「昨日お電話した工藤と申しますけど」
「あ、はいはい」
 対応したのは、見た目40半ばぐらいのおばさんだった。きっと、ご主人と一緒に書店を経営しているという感じなんだろう。
「昨日、あなたから電話もらった後に考えたんだけどねぇ、25歳でしょ。それでうちの時給じゃやっていけないでしょ」
 おばさんはそう言って、いかにも“迷惑なんだよね”という顔をして私の出した履歴書を見た。
「いや、でも掛け持ちしようと思っているので……」
 私は懸命に話をつなごうとしたが、おばさんは容赦ない。
「それでも、うちで仕事する時間がもったいないと思うわよ。時給680円だもん。それにほら、うちは夕方から入れる学生さんが欲しいのよ。夕方からっていうと、3時間か4時間ぐらいでしょ。フリーの人はとてもやっていけないと思うわ。だいたいあんた、25にもなって、一カ月働いて7、8万でどうやって暮らしていくの?」
「いや、だから掛け持ち……」
「ねー、ほら、ここの地下食品売場とかでバイト募集してるんじゃないの? そっちの方へ行った方がいいわよ。うちはもう、諦めて」
「はぁ……」
「それじゃごめんなさいね。とにかく、地下に行ってみてよ」
 こうして、私は、おばさんに追い出されるように書店を後にした。

 夢を叶えるためには、純粋のそれを追っていればいいというものではない。親はさっさと諦めてくれるからいいものの、親戚からのバッシング(『あそこの息子は作家になりたいなどと夢みたいなことを言っていて、ちょっと頭がおかしいんじゃないか』等)を受け、とりあえずバイトの面接を受けるにしても恋人からの容赦ない非難(『ねぇ、履歴書とかちゃんと送ってるの? 履歴書出していて、面接受けられないなんておかしいじゃん』等。注・この世には書類選考というものがあります)を浴び、そして夢を叶える保証がないまま、どんどん年齢が上昇していき、世間の冷たい視線を喰らいながら、食いぶちを稼がねばならない。

 夢を追うということは、同時に世間の嘲笑を浴びるということでもある。
 そして、その屈辱を乗り越えらない限り、夢は叶わないのだ。

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