身の回りの出来事系エッセイ-13 **文通協会
1997年9月19日執筆
3年ほど前のことである。
友人宅へ遊びへ行き、いつものように人生などを語っていると、友人が「あ、そうだ! 工藤に見せたいものあったんだよ」と言いながら、何通かの封筒を持ち出してきた。
「なんか、彼女のところへ手紙が来たんだよ」
そのように言う友人の話を聞いてみると、
『彼女の友達が、彼女に彼氏を作ってあげようと内緒で“**文通協会”というところに彼女の写真と住所を送った。それが掲載されてから手紙が舞い込むようになってきた』
ということだった。
「彼女の友達は、俺と彼女が付き合い始めたことを知らなかったみたいでさぁ」
友人は笑いながら言った。
「なるほどね。だけど、**文通協会なんて聞いたことないな」
あってもおかしくはないが、実際にあるという話を聞くと、どことなく胡散臭い名前だ。
文通と言えば、「ある高校生の青い文通」を見ていただければわかる通り、私にはあまりいい思い出がない。
「ま、とりあえず読んでみてよ」
友人はそう言って私に封筒を渡し、私はその封筒を受け取って中に入っていた手紙を読み始めた。
はっきり言って、3年以上も前のことだし詳しい文章は覚えていないのだが、まず自己紹介、そして趣味、好きなスポーツ、好きな音楽、そして最後にドライブへの誘いが書いてあった。
洋子さん(仮名)、初めまして。田中(仮名)と申します。
洋子さんの写真を拝見して、とても可愛い人だなと思い、手紙を書きました。
私は28歳の会社員です。趣味はドライブ(ありがちかな?)ですね。スポーツはスキーやテニスが好きです。聴いている音楽は最近はB'z、WANDS、DEEN、T-BOLANが多いです。
もしよかったら今度一緒にドライブしませんか? お返事お持ちしています。
「へぇ、写真とかは入ってないの?」
「写真はなかったらしいよ」
友人は残念そうにそう言った。この手紙の差出人も、まさかまったくの部外者が麦茶を飲みながら自分の書いた手紙を読んでいるとは夢にも思っていないことだろう。
「好きな音楽は、B'z、WANDS、DEEN、T-BOLAN だって。流行りもんばっかじゃん」
この名前を並べておけば間違いないだろうという面子だ。
「好きなスポーツ、スキー、テニス……」
これも定番だ。なんでこうやって、わざわざ没個性なプロフィールを書くんだろう。
「もしよかったらドライブへ行きましょう……か。最初の手紙でいきなりドライブなんて誘うの早いよなぁ。いきなり誘っても乗ってこないだろう、普通」
私の言葉に、友人はうんうんと頷いた。
その後、横浜中華街で撮った写真を入れた、少し体格のいい男からの手紙、女の子と喋ったりするのは苦手だけど手紙なら、という青年からの手紙などを経て、すごいのが出てきた。
「なにこれ? ダイレクトメール?」
封筒に、シールが貼り付けてあり、そのシールにはワープロで彼女の住所が打たれていた。ほとんど、一年に一回私の家に来る、大阪の業者の裏ビデオ販売ダイレクトメールのノリだ。
「いや、それも文通希望の手紙なんだけどさぁ、なんか凄いんだよねぇ」
は じ め ま し て
私 は 山 田 と 言 い ま す 。 洋 子 さ ん と の 交 際 を 是 非 希 望 し ま す 。
私 は 東 京 に 住 ん で い ま す 。 年 齢 は 2 5 歳 で す 。 身 長 は 1 7 0 セ ン チ 体 重 は 6 5 キ ロ で す 。 趣 味 は ポ ス タ ー 集 め で す 。 好 き な 音 楽 は B ' z で す 。 よ ろ し く お 願 い し ま す 。
手紙もワープロで打たれていて、まるで脅迫状だ。
封筒の裏にある自分の住所、名前もワープロだ打たれている。手書きの部分はただの一カ所もない。
「多分、字があんまりうまくないからっていうことでこうしたんだろうけど、これじゃちょっと引くよなぁ……」
「そうだよねー」
「っていうか、その前に**文通協会がちょっとやばくない?」
「そうだねー」
結局、その後、彼女のところに手紙は来なかったようだが、**文通協会っていうのは、いったいどんな組織なんだろうという疑問は残った。これだけ文通希望の手紙が来るということは、会員数もそれなりにいるということなのだろう。そのわりに、この時以来、耳にしたことがない。
彼女の友達も、いったいどこでこの協会の存在を知ったのだろう。
謎は多いが、友人と彼女は別れてしまったので、どうにも解明できないのが非常に口惜しい。