身の回りの出来事系エッセイ-14 嫌な客

1997年9月20日執筆


 物を販売する仕事をすると、かなりむかつく人間というのを目にする。そんな奴の隣に女でもいようもんなら、「よくこんな奴の彼女やってんな」とつくづく思う。
 例えば、お金を払うとき、金をレジに投げ捨てる奴というのがいる。
 財布から小銭を取り出し、それをカウンターに放り投げてくるのだ。私より年上ならまだ我慢出来るが、中学生や高校生に投げられるとかなりむかつく。床に落ちた小銭を拾いながら、正直、まじでぶっ飛ばそうかと思ったぐらいだ。
 そして、異常なほど偏執&神経質な人間。
 家具の配送のバイトをしていた時、ソファに傷が付いているというので、社員の人と一緒に引き取りに行った。
「傷はどの辺ですか?」
 と聞いた社員の人に、30歳ぐらいの女性は言った。
「ここです」
 二人で見たがどこにあるのかさっぱりわからない。だが、女性は自信満々に何もないように見える場所を指さす。
「ほら、ここです」
 結局、交換するために引き取ったのだが、社員の人は車の中で言った。
「ああいうお客さんには何も言わない方がいい。傷があるっていうんだからあるんだよ。そう思わないと客商売はやっていけない」
 だが、この経験は決して腹が立つものではなかった。彼女は別に非難はしてこなかった。傷が見えたから交換してほしいと言っただけだ。社員の人が言うように、彼女には傷が見えて、それが嫌で仕方がなかったんだろう。

 神経質な人間に“攻撃”されるとなると大変だ。

 以前、ゲームショップでバイトをしていた時のことである。
 3DO(というプレステでもサターンでもない32ビットゲーム機が存在していた)の中古を見せて下さいと言ってきた人がいたので、裏から商品を出してきて「はい、どうぞ」と見せてあげた。
 彼は舐めるように3DOの本体を見た。見ている限り、コントローラーのねじ1本1本のサビまで見ているようだった。
 商品観察を20分ほど続けた後、彼は私を呼んだ。
「あのぉ……これ、動作とか問題ないですよね?」
「はい。ちゃんと買い取った時にチェックしてるんで、全然問題ないですよ」
「でも……あの、これなんですけどね」
「はい?」
 彼は、本体を裏返し、私に見せてきた。
「ここの、このカバーなんですけど、純正のが取れちゃっていて、別の物に付け替えられているんですよ」
「はあ」
 そう言われても何がどう違うのかはさっぱりわからなかった。黒い本体に黄色い蓋がガムテープで無理矢理付いているとなると問題だが、色は合っているし無理矢理はめられているということもない。拡張端子の場所の蓋が違うと言っているらしいのだが、蓋が違うと動作に問題があるんだろうか。私は以前、ファンタの1リットル(ガラス瓶)を自動販売機で買った時、その瓶に「麦茶」とマジックペンで大きく書かれているのが出てきて驚いたことがある。しかし、構わず持って帰ってきた。リサイクル品には、そういうことがつきものだ。
「で、これじゃちょっと買えないんで、もっと値段下げてほしいんですけど」
「いやあ、ちょっとそういうことは出来ないんですけど……」
 そんなにちゃんとしたやつが欲しいのなら、新品を買いにいった方がいい。私は、「坂を上ると3DOの新品が売っているところがあるから、そこで買った方がいいですよ」と言った。しかし、彼は新品を買うほどの金はないらしく、どうしてもこれを値切りたいようだった。
「いやあ、これ以上値段下げちゃうと、うちの店も利益が出ないんで……」
 私は言った。実際にうちの店では、中古のハードというのは買い取り価格と販売価格の差が1000円とか2000円ぐらいしか違わなかったのだ。値引きのしようがない。
 彼は私の言葉を聞くと、口を曲げながら、めちゃめちゃ攻撃的な口調で言った。
「なに言ってるんですか。店の利益なんて、100円でもあればいいんじゃないんですか? 素直に売って下さいよ」
 これを聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。

 その後どうなったのか。それは当人たちしか知らない事実である。

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