身の回りの出来事系エッセイ-15 これでよろしいですか?

1997年9月21日執筆


 男所帯ゆえに、近所のスーパーへ、よく食べ物を買いに行く。
 毎日通っていると、お気に入りの店員さんというのが出来る。
 私のお気に入りの人はレジを担当している、長い髪をまとめた若い主婦の人で、もう見た目がめちゃめちゃきつそうなのだ。光月夜也と松島かえでを足して二で割ったような感じというとわかる人にはわかるだろう。美人なんだけど、オーラが攻撃的とでも言おうか。
「いらっしゃいませぇ(最後やや上がる)」という、客を突き放すような言い方もたまらない。
 だから買い物をする時には、この人のいるレジに並ぶのだが、その人がいなかったりすると、違う人のレジにいくことになる。
 そして、逆にどうしても好きになれない人というのも出てくる。
 私は自分で言うのもなんだが、客としては優良で、手持ちが万札だけだったら「すいません、1万円でお願いします」と言うし、支払額が516円とかで、小銭がぴったりなかったら、1016円とかで払うようにしている。
 しかし、この私が好きになれないレジの人(男で多分、学生)は、どういう払い方をしても、「これでよろしいですか?」と聞いてくるのだ。
 例えば、支払額が910円だったとしよう。小銭がなかったので1010円払う。
 彼はやけに丁寧な言い回しでこう言う。

「これでよろしいですか?」

(ちょうどないから、そうやって払ったんだよ!)と思いながら、私は「はい」と頷く。

 最初は、たまたま財布の口を開けていたままだったので(もしかして、まだここから出すと思って聞いたのかもな)と思っていた。しかし、それが違うと判明するのに、そう時間はかからなかった。

 ある日、私はまたも彼のレジに並ぶこととなった。並びたくないと思っても、彼のところだけ空いていたりするのだ。
「428円になります」
「(428円……8円ないから430円だな)はい」
 私は430円を取り出し、速攻で財布をしまった。財布を出していなければ、ああは言われないだろう。財布を出しているから期待されるのだ。
 しかし、彼は言った。
「これでよろしいですか?」
 ――かなりカチンときた。おまえはいったい、俺にどうしろと言うのだ。ちょうど出せというのか。ちょうどでは払えないから、わざわざそうやって払っているんだ、俺は。
 私はそう思いながらも、心をぐっと鎮めて「はい」と言った。

 それからまた更に数日だったある日。
(俺は奴のレジには絶対に並ばない)
 と思いつつ、彼のレジしか空いてなかったので、泣く泣く彼の前に商品を出した。持ち合わせでちょうどあれば言うことはない。しかし、税金と値引きが絡むスーパーで、なかなかちょうど払える支払額というのは期待出来ない。
「875円になります」
「(5円……ない……。仕方ない、千円札をそのまま出そう。いつも、中途半端な小銭を出すから、こいつはそれ以上を期待して、ああいう風に聞いてくるのだ。そして、目を合わせるな、地元駅で絡んでくる宗教の人と同じで、目が合うからああ言ってくるんだ。だけどびくびくしていると言われそうだから、堂々と且つ目を合わせないで千円円出してやれ)」
 私はそう考え、彼と目を合わせないようにして、それでいて堂々とした態度で千円札を取り出し、それを置いた。
 私は自信満々だった。これなら絶対言われない自信があった。
 しかし、彼はやっぱり言った。

「これでよろしいですか?」

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