身の回りの出来事系エッセイ-16 全国こども電話相談室

1997年10月7日執筆


 全国こども電話相談室というTBSのラジオ番組がある。大人たちが子供の素朴な質問に答えていくという単純明快な番組なのだが、私が小学校の頃、この番組に出演しようという試みが一部で流行した。流行らせたのは私だったような気がするが、その辺の流れはもう覚えていない。
 こども電話相談室には、単純に子供向けとは言い切れない醍醐味があった。
 大抵は、無着成恭、なだいなだ辺りの子供にはあまり馴染みのない教育者系レギュラー回答者がぐるぐるローテーションして出演しているのだが、時折、歌手やタレントなどあっと驚く有名人が出てくるのである。その有名人と直に会話出来るのだ。 
 ちなみに私は番組内で、日本バレーボール協会の元会長、松平氏、女性で初めて(?)ドーバー海峡を泳いで渡った人などと話した。松平氏には、

「バレーボールは、よく縦の攻撃、横の攻撃などと言いますが、これはいったいどんな攻撃ですか?」

 ドーバー海峡を泳いで渡った人には、

「ドーバー海峡を泳いでいる最中の食事はどうやって取ったんですか?」

 という質問をした。別にほんとに聞きたい質問でもないが、番組に出るための質問としては、有効的な質問と言えるだろう。小学生にしてこんなこと考えているとは実にいやらしい。

 そして中学2年の時(13歳)である。なぜ、こんな時期に子供電話相談室を聴いていたのかよくわからない(私の中でブームは小学生で去ったから)のだが、ある日のこと、番組の予告で「明日のゲストは古舘伊知郎さんです」という言葉が聞こえた。
「ふ、古舘!?」
 当時、大のプロレスファンだった私が、古舘の名前を聞いてじっとしていられるはずがない。プロレスの実況と言えば古舘だ。
 私はすぐに同じプロレスファンの新藤君(仮名)に電話を入れ、
「おい! 明日子供電話相談室に古舘が出るぞ!!」
 と興奮気味に話した。
 新藤君がすぐさま家にやってきて、二人で作戦会議を立てた。
「どんな質問がいいかなぁ」
「そうだなぁ……」
 いい年した二人が、「子供電話相談室」に質問する内容を考えているというのは、ある種不気味な光景だ。
「やっぱ、プロレスに関する質問がいいんじゃねえか?」
 新藤君が言う。しかし、当時古舘は局アナをやめて、プロレスの実況をもやめた時期だった。そんな時にプロレスの質問はよくないのではないか?
 この日はいい質問を考えられず、その後ゲームなどをやって解散し、翌日、放課後に再び集合した。
「なんかいい質問考えたか?」
 私があまり期待せずに新藤君に聞いた。
「おまえはどうだよ」
「いやぁ……あんまりいい質問考えられなかったなぁ」
 時間は夕方の4時。番組が始まる30分前である。
 電話の受付が終了するのが4時20分頃。ラジオに出演するには、4時15分には電話がつながらないと無理だ。そうなると、質問を考える時間はあと45分となる。実際には、4時から電話かけっぱなしとなるので、残り30分でなんとかしなければならない。
 ジュースを片手に私は考えた。
 どのような質問が、一番採用される率が高いのだろうか。もっともいいのは、ゲストの長所、あるいは特徴についての質問である。
 古舘の長所、特徴とはなんだろうか。
「……あ!!」
 私が思わず声を出した。
「なんだよ、いいの考えたのか?」
 新藤君がジュースを飲みながら言った。
「いや、こういうのはどうだろう? 古舘って、喋るの早いじゃん。だから、どうやったらそんなに早く喋れるんですか、っていう質問」
「いい質問かぁ、それ?」
「絶対、いいよ! これでいけるって!!」
 私は成功を確信していた。

 そして4時30分。「♪もーしもしどしたーどしたーもーしもしどしたーどしたー なんでも聞いちゃお はいはーい こーども でんわ そうだん しつ テレテーレテッテ テレッテレッテ テッテ」という子供電話相談室のテーマ曲が流れた。この時点で、私はダイヤルを速攻で回していた。外タレの日本公演チケット販売並につながらないので、とにかく少しでも長く時間かけまくるしかない。つながらないと意味がない。
 4時5分、10分、時間は刻一刻と経過していく。しかし、受話器から聞こえるのは、

「おかけになった電話番号は大変混み合ってかかりにくくなっております」

 時間がない。まだ、私の質問である、“どうやったら、そんな早口で喋れるようになれるんですか”は出ていない。質問がだぶったら意味がないのだ。
(もう駄目か……)
 そう思った時である。

 トゥルルルルルル トゥルルルルル

「か、かかった!!」
 私が声を出す。
「はい。もしもし」
「も、も、もしもし」
 興奮でろれつが回らなかった。
「お名前とお電話番号を言って下さい」
「加藤二郎、****-**-****です!」
 ちなみに、私は本名を出すのはやや抵抗があり、小学生の時から指名手配犯の名前を使っていた。加藤二郎というのもそうである。
「はい、質問はどんなことですか?」
「あの、古舘さんはいつもプロレスの実況で早口で喋っているんですけど、あれは訓練とかしているんですか?」
「はい、わかりました。それでは電話を切らずに少々お待ち下さい」
「は、はい」

 そして数分後。私に待ちに待った朗報が告げられた。
「もしもし、番組に出演していただくことになりました」
「(うおおおおおおおお!!)は、はい!!」
「このまま電話を切らないで下さいね。今、電話をスタジオとつなげますから。今の人の質問が終わったら、呼び出し音が聞こえるので、そうしたら質問して下さい」
「は、はい!!」
 聞き慣れた説明だ。段取りはすべてわかっている。受話器を離し、新藤君へ向かってガッツポーズ。
「やったぞ!!」
「まじ、まじ!?」
 新藤君も興奮気味だった。
「次なんだよ、ちょっと録音頼む」
「おっけー!」
 用意がいいことに、既にラジカセの中にテープを入れていて、いつでも録音が出来るようにしておいた。

 そして、私の順番が来た……。

では、勇気のある方。ここをクリックして下さい

 いかがだろうか。
「聞かなきゃよかった……」
 そういう溜め息が聞こえてくるようだ。
 ちなみに随分と鼻声だが、蓄膿症ではない。

 以下、2002年12月10日加筆分

 古舘伊知郎の答えは、「二郎くーん、もう南極から帰ってきたのかな?(南極物語に出てきた犬にかけたのだと思われる)。僕は実況していると気分が高揚してくるんだ。だから自然と舌の回転が速くなる。勿論、早口言葉(あの竹に立てかけたかったのは……とかなんとか)を使って訓練もしているけどね」というものだった。

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