身の回りの出来事系エッセイ-17 午後の紅茶 ミルクティー

1997年10月15日執筆


 午後の紅茶のペットボトル(ホームサイズ)を思い浮かべてほしい。
 レモンティー、ストレートティー、ミルクティーとあるのだが、レモンとストレートのペットボトルに比べて、ミルクティーの注ぎ口のサイズが、他の二つより明らかに大きいことにお気づきだろうか。
 私はこの疑問を、ニフティの掲示板で初めて見たのだが、「あー、そう言えばそうだよなぁ……」と随分不思議に思った。
 誰も解答を掲示板には載せてくれず、結局、答えはわからずじまい。
 そしてそれから数週間後、『もう話したくもないし、話すこともない』の彼女と、ラブラブになるずっと以前、知り合って間もなくのことなのだが、彼女と談笑していた私は、この疑問を思い出して彼女に聞いてみた。
「ねー、午後の紅茶のペットボトルあるじゃん。あれってさ、なんでミルクティーの注ぎ口だけでかいんだろうね」
「あぁ、そう言えばそうだね!」
 彼女ははっとしたような顔をして私を見た。
 私はこの時点で、一つの仮説をある方より聞いていた。それは、『ペットボトルを再利用する際、煮沸消毒をするのだが、そのとき、ミルクティーは牛乳が入っていて洗い残しがあると腐ってしまう。それを防ぐために蓋を大きくした(洗浄液でよくすすげるように)』というものであった。
 ただ、この仮説には大きな欠点がある。衛生面でガラス瓶にはとてもかなわないプラスティック製のペットボトルを、再利用するなんて話は聞いたことがない。
 そう考えると、この仮説は明らかに違う。
 しかし、私が一応この仮説を彼女に話してみると、彼女は大きく頷き、
「うん、それかもしれないよ!」
 と言った。
「思いきって電話して聞いてみようか?」
「え、どこに?」
 彼女が少し不思議そうな顔をしながら言う。
「いや、キリンで作っているから、キリンのお客様窓口みたいなところに」
「はははは、いいじゃんそれ! そうだ、聞いちゃいなよ!」
 まさに和気藹々。まさか、それから半年後、「もう話したくもないし、話すこともない」と言われるとは……(しつこい(笑))。

 さて、ここで本当に電話をして聞いてしまうのが、私の私たる所以である。
 家に帰って、早速お客様サービスセンターというようなところに電話をした。

 トゥルルルルル…… トゥルルルルル…… ガチャ

「はい、キリンサービスセンターでございます(ほんとにこんな名前なのかは忘れた)」
 男性のよく通る声がした。非常にきっちりとした対応だった。さすが大手企業は違う。
「あのー、ちょっと質問があるんですけどいいですか?」
 しかし、私がこう言った後だった。担当の男の口調ががらりと変わった。

はあい、なにかなあ?

(おい、俺は24だぞ)。
 そう思ったが、いちいち言うのも大人げないので気にせずに話を進めた。
「えーと、午後の紅茶のペットボトルありますよね。あれで、なんでミルクティーの注ぎ口だけ大きいのかなぁ、と思って」
 私の質問に、担当の男は笑った。
「ははは、よく聞かれるんだよねー、その質問」
 もう、ほとんど子供電話相談室状態だ。
「あのね、大した理由じゃないんですよ。ミルクティーを注入する機械だけ、他のものとはちょっと大きさが違いましてね。それで、その機械に合わせて注ぎ口を大きくしているというわけなんです。機械を作り直すのは、手間とお金がかかって無駄なんですよ。……わかりましたぁ?」
 教育テレビに出てくるお兄さんにでもなったつもりであろうか。相変わらずの口調で男は言った。
「はあ……わかりました。どうもありがとうございます」
「はぁい」
 私は静かに電話を切った。
 一番、面白くもなんともない結論に落ち着いた気がする。

 次の日、彼女に会って報告した。
「――というわけなんだって」
「へぇ……なんか『それだけ?』って感じだね」
 身近な疑問の答えというのは得てして、単純なものである。意外な真相を期待すると肩すかしをくらうという好例だ。
 まあ、これを機に彼女と仲良くなったので、もし気になる彼女がいる方、会話のきっかけとしてこの疑問を彼女にぶつけてみてはいかがだろうか。

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