身の回りの出来事系エッセイ-26 松田聖子のファンだった

1998年1月18日執筆


 私が小学生の高学年だった頃(15年ほど前)、人気絶頂だったアイドルと言えば、なんと言っても松田聖子であった。
 松田聖子以外の当時のアイドルと言うと、河合奈保子、柏原よしえ(現・芳恵)、中森明菜などが挙げられるが、その中でもスーパーアイドルと言えば、やはり松田聖子だった。
 ところが、どういうわけか私たち小学生の間では「松田聖子のファンなんてかっこ悪い」という風潮があり、中森明菜を支持する人たちが多かった。当時、松田聖子のファンクラブに入っていた川瀬君(仮名)など、その事実だけで学年中から馬鹿にされていたほどだ。
 ちなみに、ちょっとマニアックな人間になると伊藤つかさ(3年B組金八先生に出演)や伊藤麻衣子(現・いとうまい子 高校聖夫婦に出演)を応援し、更にマニアックになると伊藤さやか(実写版・陽あたり良好で竹本孝之と共演)とか桂木文(TV版翔んだカップルに出演)のファンになり、究極のマニアになると、小田かおる(にっかつロマンポルノに出演)辺りのファンになったかもしれないが、小学生でにっかつポルノ女優のファンがいたかどうかは定かではない。
 まあ、その辺の細かいところはさておき、実を言うと当時、私は隠れ松田聖子ファンであった。
 カンペンケースの底に、「SEIKO LOVE」とカッターの先で彫ったぐらいのファンであったが、周囲の流れには逆らえず、彼女のファンということはずっと言えなかった。
 しかし、「松田聖子衝撃のキスシーン」などの記事が明星(ラーメンではない)辺りに載ると(えっ、聖子ちゃんがキス!?)と衝撃を受け、300円握りしめて週刊明星を買いに行き、ドラマでラブシーンを演じる際、ワイドショーで「聖子 密室の情事」と報じられた時も、(情事……情事ってなんだ? 山本譲二と共演ってことなのか? でも字が違うぞ……気になるな)ということで、わざわざ辞書を引っぱり出して“情事”の意味を調べた。
 近所の駄菓子屋に行き、隠れるように彼女のプロマイドを買い、彼女がパーソナリティをしているラジオ番組をどきどきしながらテープに録った。それほど彼女のことが好きだった。

 そんなある日のこと。
 学校での休み時間、教室の後ろで、何やら人が集まってにぎやかになっているのが見えた。
「みんなどうしたの?」
 私がその輪に入ると、松田君(仮名)が笑いながらこう言った。
「あはは、聞いてくれよ! 山口(仮名)がさ、松田聖子のテープ持ってきたんだけど、歌のタイトル間違えてんの」
「どれどれ」
 腹を抱えて苦しそうに笑っている松田君の手から、山口君のテープケースを受け取り、そして見た。

 裸の季節

 そこには確かにこう書いてあった。
「裸じゃねえだろっつうの、裸足だよ、裸足!!!」
 松田君はそう言いながら、なおも笑い転げている。確かに彼の言う通り、「裸の季節」ではなく、「裸足の季節」が正しい。松田聖子のデビュー曲だ。
「裸になってどうすんだっつうんだよ! にっかつにでも入るのかよ!」
 もう周りは大受けだった。笑いが笑いを呼んで止まらない状態になっていた。
 そんな中、当の山口君はいろいろと言い訳を言っていたが、まともに聞いている人間は誰もいなく、そうこうしているうちにチャイムが鳴り、先生が入ってきて、この馬鹿騒ぎも幕を閉じた。

(……俺のにはちゃんと書いてあったよな、確か)
 今日の山口君の不幸が、どうしても他人事とは思えない。
 学校が終わってすぐ家に帰り、自分で作った「SEIKO BEST」のカセットをテープケースを確認する私。
 オチは書くまでもないが、一応書いておこう。
(……やっぱな)
 そんな予感はしていた。
 私のテープの1曲目。

「裸の季節」だった。

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