身の回りの出来事系エッセイ-44 言葉が足りない人々

1998年11月11日執筆


 最近、目的語だけで、かかる動詞などを欠いた、不思議な日本語を喋る人が目立つ。
 別に正しい日本語がどうとか、美しい日本語を守ろうとか言うつもりはさらさらないが(いつの時代の、どの言葉が正しくて美しいのかわからない)、省略され過ぎていてなんかすっきりしないのだ。

 コンビニに行って弁当を買った時。
「いらっしゃいませー」
 腹の底から絞り出すような、妙に迫力のある声を響かせ、短髪の男性店員(多分、大学生)が私の相手をした。
「これお願いします」
「温めますか?」
「いや、いいです」

 ピッピピピ←レジの音

「525円です」
「……あ、細かいのないんで五千円でお願いします」←五千円札渡す
「五千円」
「……」
「……」←弁当を黙々と袋に入れる
「……(五千円をなんなんだ?)」

 ピッピピピ

「4475円」←お釣り渡してくる
「……」
「ありがとうございました」
「……」

 ぴんぽぉ~ん←店から出た時になるチャイム

 書いていてもやはり釈然としない。
 一応、アルバイトとして長年接客業に従事していた男としては、「五千円お預かりいたします」とか「4475円のお返しになります」と言ってほしいところだ。
 こういう点で言えば、大型スーパーのレジで接客をしている女子高生の皆様の方(白のルーズも紺のハイソックスも、ノーマルな白ソックスも入り乱れて)が、年齢も若いのにかかわらず、コンビニの大学生君よりよほどまともな言葉遣いで接客してくれる。

 とは言え、コンビニのアルバイト君はまだいい。公共の電波を使って、このような言葉遣いをする人がいる。

「わあああああああ(パチパチパチパチ←拍手)」
「はい、テレビショッピングのお時間がやってまいりました。さて、今日の商品をご紹介していただくのは**さんです」
「はい、どうもぉ、こんにちはぁ」
「おお、真珠ですか?」
「ええ。あのですね、えっと、あのぉ、私ども独自のルートを使い、今回、格安で本真珠をご提供出来ることにぃ、なりました」
「うわぁ、粒がおっきいですね~」
「はい、えっと、あのー、こちら、職人さんが厳選した、粒の揃っている大きな真珠だけをご用意いたしましたので、もう、安心してご購入していただけるかと思います」
「それで気になるのはお値段ですよね。これだけのものなら高いでしょう」
「いや、えーと、そんなことありません。あのぉ、ずはりですね、えー、今回この真珠の指輪のお値段、わたくしども精一杯のところをつけさせていただいて、えーと、39800円で……
「39800円!?」
「わあああああああ(パチパチパチパチ)」
「こんな粒の大きい真珠の指輪が39800円でいいんですか!? えー?」
「いや、それで、あの、まだあるんですよ。えっと、こちらのブローチ、周りにダイヤモンドをあしらった真珠のブローチをお付けてして」
「お付けして!」
39800円で……
「わあああああああ(パチパチパチパチ)」
「指輪にブローチまでついて、39800円!?」
「そして更に」
「そして更に!?」
「こちら、あのー、ネックレスなんですけどぉ、1ミリ玉を30個使ったもので、はい、もう、どなたでも見栄えのする商品なんですけどぉ、これを付けて」
「うん!」
39800円で……
「わあああああああ(パチパチパチパチ)」
「うわぁ、それじゃ、指輪、ブローチ、ネックレスの3点で39800円?」
「いや、あの、実はまだあるんですけどぉ、ええ」
「まだある!?」
「はい、あのぉ、こちら、宝石の鑑定書をおつけして」
「おつけして!」
39800円で……
「わあああああああ(パチパチパチパチ)」
「これはすごいお値段ですね。真珠3点セットに鑑定書をつけて39800円。皆さん、これはお買い得ですよ!」

 この放送を見るたび、いつも思う。

39800円でどうしたいんだ?

 と。

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