身の回りの出来事系エッセイ-47 某有名国際電話会社より
1999年1月23日執筆
この世には、猥褻なことや競馬の予想なんかを、お金を取った上で聴かせる電話サービスというものが存在している。
1分間の通話で100円ぐらい取られるので、「わたしぃ~ ちょースケベだからぁ、独りエッチしちゃってぇ~ 今からぁ~ あたしのあえぎ声を聴いてもらおうかなぁとか思ってるんだけどぉ~ その前にぃ~」などと、無理矢理若い声を作った中年女性に、クレジットカード登録の仕方などを聞かされた日には、あっという間に10分1000円となってしまう。
昔は「0990」から始まるダイヤルQ2しか、そういう類のものはなかったのだが、最近は(というより2、3年前から)「001」から始まる番号にかけさせて(モルジブ共和国とか、よくわからない外国にかかる)、高額なサービス料を取るものが増えてきたようだ。
どうして外国にかけると、サービスを提供している会社に金が入るのか仕組みはいまいち不明だが、どうやら日本から外国にかけると、日本の電話会社からかけた先の電話会社にお金(手数料?)が渡されるらしく、それを折半しているらしい。
3年ほど前。
暇だったということも手伝い、つい魔が差して、「001」から始まる番号を押してしまった。番組内容はくだらないものだったが、とりあえず最後まで聞いて電話を切った。時間にして15分ぐらいだっただろうか。
本によると、NTTの電話料金に請求が回るということだったので、まあ、俺は払う必要はねえやなどと思っていたのだが、しばらくして、超有名国際電話会社より一通の請求書が届いた。
(なんだ、これ?)
この時点で、あの時の通話先がモルジブ共和国(推定)だったとは知る由もない。封筒を開けてみると、請求額のところには5000円とある。
(国際電話なんてかけてねえけどなぁ……)
よくわからないので、とりあえず放っておいた。
その後、あの電話が国際電話だったんだということがわかり、超有名国際電話の方(女性)より確認の電話が2回ほど来て、そのたびに「払います」と言ったものの、なんやかんやで払わない日が続き(銀行に行く時間が取れなかった)、すっかり忘却の彼方となってしまった2カ月後。
プルルルルル プルルルルル
「はい、工藤ですけど」
私の声に、電話の主はゆっくりと反応する。
「もしもし、***の者ですが」
超有名国際電話会社に勤める男性職員からの電話である。
「あ、はいはい(やべ、いい加減払わなきゃ)」
「工藤さんですね」
「あ、はいそうです」
女性職員の場合、ここから口調は柔らかくなったが、彼は違った。
「料金の方……いつ払ってもらえるんでしょうかね」
普通の声じゃない。
ドスの効いた中尾彬の声だ。
「え、ああ、バイトが休みの時にでも……」
私はこの声にかなりびびったが、とりあえず他に言うことがない。
「今すぐ払えないんですかね」
「いや、今はちょっと……給料日前で手持ちのお金がないんで。とりあえず、来週でいいですか?」
「はっきり言って、それじゃうちとしても困るんですよ」
「本当にすいません」
この時点で、あの時、なんで俺はモルジブ共和国にかけてしまったんだという後悔の念が、頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
相手が女性ならまだいい。
実際は中尾彬だ。
「その時、必ず払っていただけると約束出来ますかね」
「払います、大丈夫です」
私の言葉に男は満足したらしく、「それではよろしく」と言って電話を切った。
その後、金が入ると速攻でお金を振り込み(バイトを休んで)、この超有名国際電話会社と縁を切ることに成功した。
男はきっと、こうやって世の中のことを知っていくんだろう。
勉強になったよ、KDD。