身の回りの出来事系エッセイ-9 10秒

1998年8月14日執筆


 雨に祟られた、江ノ島花火大会を観に行った日のことである。
 ちょうどその日、うちの近所で夏祭り大会が開催されていた。なかなか大きなお祭りで出店も多く、3000円も持っていればかなり楽しめる。私もこの祭りではカラオケ大会で覆面をかぶって出たり、バンド演奏したりと随分楽しませてもらったものだ。
 思い出を振り返りながらお祭り会場を歩いていると、中学生ぐらいの男二人組が何かに追われるように走っている光景が目に入った。
(ん、なんだ? なんかあったのかな?)
 私が彼らを目で追っていると、今度は妙にドスの効いた声が耳に入った。

10秒だぇぞえぇぇ(文字では、この発音の100%再現が不可能)」

 声の主を見ると、高校1年か2年生ぐらいで丸刈り頭の、ちょっと怖い雰囲気を漂わせている男子だった。

「は、はいっ!!」

 男子二人組はその声にせかされて、転がるように走っていく。多分、焼きそばかなんかを買いに行かされているんだろうが、焼きそばを10秒で買いに行かなきゃいけない理由というのはなんだろうか。丸刈り高校生君に聞いてみたい。

 この3人を見て思い出したのだが、私が学生の頃も、「10秒」だの「10回」だの制限を設けて他人に行動させる人間たちがいた。芸の細かい人間だと、後輩に何かを買いに行かせて「10、9、8……」と指を折りながらカウントダウンしていたが、人間というのは不思議なもので、こうされると妙に焦ってしまうものである。私から見ても痛々しいほどに、後輩たちは慌てた様子で走らされていた。

 丸刈り高校生君がもっと大人になって、年功序列制がまるで効かなくなったとき。彼のために10秒で目的地に走ってくれる後輩はいるんだろうか。

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