シモネタ系エッセイ-2 品川駅のうんこ

1997年12月17日執筆


 以前、WHAT'S NEW兼隔日雑感記で『品川駅のホームでうんこをしていた男』のことを書いた。
 これを書いたのは結構前のこと(エッセイ&日記が始まるちょい前ぐらい)なので、読んでいない人も多いかもしれない。というわけで、改めてこの衝撃の事実に触れていくことにしよう。そして更に、『駅のホームにいる、ちょっと変わった人たち』のことを書いていきたいと思う。

 まずは『品川駅のホームで、うんこしていた男を見た事件』から。
 今年の8月か9月に、友人の羽賀君(仮名)と、二人の共通の友人である泉君が所属しているバンドのライブを観に新宿に行き、彼の素晴らしいギターを堪能した後、山手線を使って新宿から品川へ行った時の話である。
 品川から東海道線に乗り換えるために山手線を下りた私と羽賀君。
「いやー、しかし、ライブはやっぱ楽しいよね」
「そうだよ、俺たちもライブやろうぜ」
「そうだなー、まあ、ドラムがいればすぐにでもやるんだけどなぁ」
 私はそう言いつつ、泉君のバンドの前後に出演した、加納典明風のギタリストを擁していたバンドのことを思い出していた。
(あのギターの人もうまかったけど、あのボーカルの女の子も、いい感じだったなー)
 パワーのある声と、安定した音程と、抜群のリズム感。そしてあの輝く風貌。私が人気バンドのバンマスだったら、即スカウトするだろう。場合によっては口説くかもしれない(笑)。
(……ん?)
 女の子の顔を思い浮かべつつ、ふと視線をシャッターの閉まったキオスクに移すと、野球帽を深く被った男が、店の前にしゃがみ込んでいる様子が見えた。
(あれ、具合でも悪いのかな)
 ひょっとしたら、貧血でも起こしているのかもしれない。私は、「どうかしたんですか?」と声をかけるために、彼に近づいた。
(……えっ?)
 私は近眼なので遠くからではわからなかったのだが、近づくとなんだか妙な光景が目に入った。
 彼のブリーフが足下まで下りているのである。
 私は思わず、視線をその下に向けた。
(……)
 その瞬間、私の中にあったその日の素晴らしい思い出と、女性ボーカルの美顔はものの見事にふっ飛んでいた。
(なんで、こんなところでうんこしてるんだ?)
 太めのが2、3本はあっただろうか。そしてどこからともなく巻き起こる女の子の悲鳴。気持ちはわかる。
「ちょ、ちょっとおい」
 私が小声で羽賀君を呼んだ。
「ん?」
「今の見た?」
 男を通り過ぎた私は、小声でそう言った。
「なに?」
「うんこ」
したいの?
「そうじゃねぇよ。今、おじさんがしゃがんでいたの見てなかった?」
「えっ? 見てなかったけど……」
「馬鹿だな、おまえ。なんだよー、もうあんな貴重な光景、2度と見られないよ」
 そう言いながら、(もしかしたら見てない方が幸せなのかもな)と思い直し、私は足を進めた。
 考えてみると、あのラブリーなボーカルの女の子の顔は、もう既に私の頭にはない。しかし、うんこをしていたおじさんの姿は強烈に焼きついている。はっきり言って、一生忘れないだろう。これはあまりいいことではない。

 こんな風に、わいせつ罪で連れていかれそうな人がいるかと思えば、詐欺罪で連れて行かれそうな人もいるのが駅のホームだ。
 1年ほど前、新宿の飲み会に参加した私は、時刻表をまともに見てこなかったせいで、小田急の終電に乗り遅れてしまった。
「やっばいよ、これ」
 明日は午後からとは言え仕事がある。ここからタクシーで帰るには金がかかり過ぎで無理だ。ホテルに泊まるのも同様の理由で無理。
「仕方ない、とりあえず東京へ出よう」
 JRは、小田急より終電が少し遅い時間に出るような記憶があったので、私は新宿から東京へ向かった。

(……)
 しかし、東京駅で見た光景はまさに無人のホーム。周囲にあるビルの灯りが少ないところがまた泣かせる。
(ああ……まいったなー)
 仕方ない、とりあえず飲んでいた人間に連絡取って、朝まで付き合ってもらおう。そう思い、歩き始めると、どこから現れたのか北国の春を歌う千昌夫のような格好をした人がこちらへとぼとぼと歩いてきた。
「あのー」
「……はい?」
 男は、妙に気弱そうな声で私に話し掛けてくる。
「電車なくなっちゃったんです」
「そうみたいですね」
 気の毒だか仕方がない。
「泊まるお金ないんです」
「ああ」
 俺もそうなんですよ、そう言おうと思ったが傷の舐め合いみたいになると悲しいのでやめといた。
 すると男は、こちらへ更に近づき、細々とした声でこう言う。
どうしたらいいんでしょう?
「さあ」
 私がちょっと驚きながら首を捻ると、彼は堂々とこう言った。

お金貸して下さい

 いつ返してくれるんだろうか(笑)

 駅のホームにはほんと、いろんな人がいる。

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