恋愛系エッセイ-1 それを言っちゃ……

1997年9月24日執筆


 彼女にしようと狙っている。だけど今の関係はただの友達。そんな女の子に電話をかけるのが一番難しい。電話を掛けた理由というのを、話さなくてはいけないからである。
 特に親しいわけでもない、あくまでも“普通”の男友達から電話がかかってくれば、「どうしたの?」とか「なに?」と聞くのが女の子としては当然だろう。
 普通に話を進めていく場合、

「もしもし」
「美貴ちゃん? 工藤だけど」
「あ、久しぶりじゃないですか~。どうしたんですか?」
「いや、携帯変えたからそのお知らせにと思って。元気?」

 と適当な理由で入っていけばいいと思うが、相手に意識して欲しいと強く願ってしまうと、

「いや、**さんの声が聞きたいと思って」

 などと言ってしまう場合がままある。
「私はあなたに気があります」
 という気持ちを混じりけなしに含むこの言葉は、相手も同じ気持ちなら、使うことで一気に先へと進む可能性もあり得るが、そんなことは滅多になく、大抵思いっきり引かれる。
 多くの男性が、この言葉を映画やドラマなどで聞いた経験があり、それで記憶に残っていて自分も使ってしまうと思うのだが、映画やドラマで使われている間柄をよく観察するとほぼ100%、お互い気になっている同士であり、夏に食事に誘ったら年内いっぱい忙しいと言われた男が使うというケースはまずない。きっと、女性にアンケートを採ったら気のない男に電話で言われて困る言葉の上位に来るだろう。
 そんなわけで、この掴み言葉はよほどの確信がない限り使わないほうがいいと封印していた私であるが、かつて、一度だけ使ったことがある。
 それは、当時好きだった年下の彼女と、鎌倉へ初めてデートへ行った一週間後ぐらいであったと思う。
 誕生日プレゼントに、東急ハンズで買ったフレーム入りのミッキーマウスのポスター(約1万円)をあげて、「かわいいー、ありがとー」なんて言われて、いけいけだったのだが、
「今日、楽しかった?」
「うん」
「またどこか遊びに行きたいね」
「うん」
「じゃあ……映画にでも行こうか?」
「……」
「映画いやなの?」
「え、っていうか、次は映画なのかなぁって思って……」
 ということを言われ、当時、全然デート慣れしていなかった私は「『次は映画なのかなぁって思って……』って、じゃあ、次はどこ連れていきゃいいんだ?」と真剣に悩んだ。なんて若いんだろう。
 とりあえず、一週間に2回ぐらいは電話しておいた方がいいのかな、と、それから日を少し置いて、彼女の家に電話をかけた。
 問題はやはり話題である。どこに誘うわけでも、なにがあったわけでもないので困ってしまったが、とりあえず「おまえと話したい」っていうことで押していくことにした。好意をぶつけ続ければ女性は必ず応えてくれると信じ切っていたのだ。

「もしもし工藤ですけど」
「あ、**~(彼女は、自分のことを名前で呼ぶ)」
「何やってたの?」
「ん? テレビ観てた」
「そっかぁ」
「どうしたの?」

「いや……ちょっと声が聞きたいと思ってさ」

 私はこの言葉を自分で言って、(決まったな)と思った。
 しかし、彼女は笑いながらこう言った。

「別に聞かなくていいよ

 この日以来、私はこの言葉を使っていない。

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