第十九回 インタビュー その1


「工藤君、さとう(さとうふみや氏)さんにする質問、考えてくれたかな」
 問題、解答共にほぼ書き終えたものの、本当にきつかったのはここからだった。原作プレイバックという、コミックの内容をまとめるコーナーと、原作者インタビューがまるまる残っていたのだ。何かをまとめるという作業が一番苦手な私にとって、これらは頭痛の種だった。
「一応、20問ぐらい考えてみました」
 Kさんの言葉に大きく息を吐き出した後、顔全体を右手で覆いながら答える。
 この頃はもう、底なし沼にはまったような状態で心身共にぼろぼろの状態だった。書いても書いても、懸賞クイズの問題、インタビューの内容、吹き出しの中に入れる台詞、どの問題のどのカットを使うか、今までの問題の書き直しなど、次から次へとやることが発生し、締め切りまで間もないのに本当に完成するのかという疑念さえ抱いた。
 一番苦しかったのは愚痴を言う相手がいないことで、その辺のドラマなら、

男「ったく、どいつもこいつも俺の大変さをわかってねーんだよっ!」
女「そんなことないよ、みんなわかってるよ!」
男「わかってねーよ」
女「わかってるよ!」
男「わかってねえって言ってんだよ!」
女「ばかっ!」
男「……」
女「あたし――あたしはわかってる! あなたがどんなに大変か――だって、あたし、あなたのこと」
男「え――」
女「あなたのこと――ずっと見てるからっ!」
男「(かあっ←顔面紅潮)」

 というような感じで、好意を寄せてくれている幼なじみが話を聞いてくれたりするのだが、現実世界ではそんな都合のいいことあるはずもない。
 久々に脱線してしまった。話を戻そう。
「お、例えばどんなの」
 Kさんが椅子をくるっと回して聞いてくる。
「えー、例えば……」
「うん」
「『名探偵コナンのことをどう思いますか?』とか」

「……それ、ちょっとやばくないか?

「とりあえず、聞けたら聞いてみましょうよ」
 椅子の背にぐったりともたれかかった私に、Kさんは笑みを浮かべながらため息を一つついて、言った。
「ま、その辺は君に任せる」
 原作物の執筆というのは、基本的に本物の歌手に代わってアニメソングをレコーディングするようなものだ。いかに忠実にトレースするかが重要な問題で、オリジナリティなんか出そうものなら「余計なことしなくてもいいんだよ」と一喝されたっておかしくない。
 だが、金田一に関してはKさんが本当に自由にやらせてくれた。Aさんから声がかかったのも、オリジナリティが発揮出来たからだと思う。もし、単に原作に忠実、ということだけだったらそのまま終わっていただろう。
「よし、じゃ、行こうか。担当の人に君のこと紹介しなくちゃいけないから、とりあえず講談社に。それからAさんと担当さんと4人でさとうさんの所へ行くから。あ、そうだ、インタビューはどうする? 工藤君がやってもいいし、ま、俺がやってもいいけど」
「Kさん、お願いしますよ」
「わかった、俺がやろう」
 Kさんはそう言って机の上にあった書類袋を取り、私は質問を書いた紙をリュックに入れ、講談社へと向かった。

「いやー、ごめん、ちょっと遅くなっちゃって」
 まんが道にもたびたび登場する講談社の待合室。ソファがあって、テーブル板がガラス製というのだけが当時との違いで、あとはほとんど変わらない。天井が高く、格調高いと言うか、とにかく独特の空気が漂っていて私は大変気に入った。
「質問はどう? いや、僕もいろいろ聞きたいことがあるんだけど、君たちの質問の方が大切だからね」
 いつもながらにラフな格好をしたAさんが腰掛けながら言った。
「彼が全部考えたんで、まあ、大丈夫だと思います」
 Kさんが横にいる私を見て言う。
「そう。えっとね、都丸君ももうすぐ来るから、来たら行きましょう」
「え、都丸って、あのMMRの都丸さんですか?」
 週刊少年マガジン愛読者であった私は、都丸という名前に強烈なインパクトを感じた。人類滅亡扇動漫画「MMR」に出てくるキャラクターの一人の名前が都丸なのだ。
「そうだよ」
 Aさんが涼しげな顔をして答える。
「キバヤシ君と都丸君が担当なんだけど、今日は都丸君だけが来ることになっているんだ」
「え、キバヤシって、あのMMRのキバヤシさんですか?」
 週刊少年マガジン愛読者であった私は、キバヤシという名前に強烈なインパクトを感じた(以下省略)。

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