第二十一回 インタビュー その3


 さとうふみや氏の自宅に着いたのは約束の時間を少し過ぎた頃だった。確か、Aさんが道を間違えたんだと思う。込み入った路地をあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら、やっとのことで探しだした。
「でかい家ですね……」
「そうだね」
 思わず見上げた私に、Kさんが頷く。
 Aさんが玄関のチャイムを鳴らすと、さとう氏のお母さんと思われる女性が犬を抱きながら出迎えてきた。
「どうも、すいませんでした。道に迷ってしまって」
「いえ、いいんですよ。ご苦労様でした」
 そんな会話の後、私たちは緊張した面もちで玄関に入り、家に上がった。
 廊下を少し歩くと、いきなり大きな部屋に出た。アシスタントとおぼしき人たちが5、6人はいただろうか。長方形の机を取り囲んで黙々と仕事をしている。そして、一番偉い人が座りそうな場所に眼鏡を掛けた女性が座っており、やはり黙々とペンを動かしている。ちらちらとアシスタントの皆さんが書いている原稿を見たが、さすがプロ。汚れもムラもない。
「あの人ですか?」
「じゃないかな」
 私とKさんがひそひそと囁き合っている横で、
「いやー、都丸君、ごめんなさい。道に迷っちゃって」
「いえ、ちょうどいい所でしたよ。じゃ、早速、インタビュー入りますか?」
 と、Aさんと都丸氏が明るい調子で打ち合わせを始めている。
「……Kさん」
 私は背中のリュックを下ろし、コピー機の横に置かせてもらうと小さな声でそう言った。
「なに?」
「例の質問、どうしましょうか?」
「例のって?」
「いや、名探偵コナンをどう思いますか? です」
「別にいいんじゃないの? もし、都合が悪かったらカットするだろうし」
「でも、なんとなく本人目の前にすると聞きづらいですよね」
 以前、江ノ島でとんねるずに会った時も思ったが、著名人は独特のオーラを発しているように感じる。会う前は「あれを言ってやろう」「これを言ってやろう」とネタを考えてはほくそ笑んでいるのに、本人を目の前にすると「握手してください」ぐらいしか言葉が出てこないというのは素人の悲しい性か。
「じゃあ紹介します。えーと、本をまとめてくれるK君とアンカーの工藤君です」
 Aさんの紹介で、私とKさんはさとう氏に挨拶をした。
「あ、それでですね、Aさん」
 さとう氏の横にいた都丸氏がにこにこ笑っているAさんに言う。
「一応、質問のチェックをしておきたいんですけど」
 ぎくっと来た。
 やはりそういうものがあるのか。いや、だけどチェックしてもらうのはいいことなのかもしれない。いきなり、「名探偵コナンをどう思いますか?」なんて聞いて、場の雰囲気が険悪になったらすべては終わりだ。
「あ、えーとね、質問は彼が考えてくれたみたいだから」
 Aさんが私に目配せをし、私は慌ててポケットから一枚の紙を取り出した。
「これです」
「はい。それじゃ、拝見します」
 都丸氏とさとう氏は部屋の奥へと移動し、私たちはその部屋と続いている4畳半ほどの別室でインタビューの用意をすることになった。既に講談社のカメラマンの人が来ていて、見たこともない仰々しいカメラをセッティングしている。
「Kさん、今見てますよ」
「なにを?」
「あれですよ、名探偵コナンの質問」
「まじ?」
 Kさんが笑いながら言った。
 都丸氏とさとう氏は明らかに、例の質問を読んでいる風だった。都丸氏が何かを笑いながら言って、さとう氏も一緒に笑っている。もしかしたら、激怒させて終わりじゃないかという気もしていたので、この反応は私を安心させた。

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