第二十二回 インタビュー その4


「それじゃ、今日はどうもありがとうございました」
 Kさんがテレコを回しながら私の考えた質問をさとう氏にぶつけ、引き出された答えを私がメモしていくような感じで、インタビューは無事終了した。
 ここ数回のさっか道を引っ張った「名探偵コナンについてどう思いますか?」だが、案の定、流れされた。聞かれた所でどうにも答えようがないというのが向こうの正直な所だろう。残念なようでほっとしたというのが当時の私の気持ちだった。
 著名人に会って、いろいろと話を聞くというのは駆け出しのライターにとっていい経験になると思う。勿論、その著名人の話も勉強になるが、インタビューという仕事一つでどれだけの人間が動くのか、著名人をどういう人間たちが支えているのか、そういう陰の部分を見られるというのは大変有意義だ。もし、自分が小説家として有名になった時、勘違いしてしまうことを防げると思う。
 小説家は一人で仕事をする職業と思われがちだが、そんなことはない。担当の編集者、デザイナー、イラストレーター、校正の人と、ちょっと挙げてもこれだけの人と一緒に仕事をすることになる。たとえ天才であっても、裏方の人にサポートしてもらわなければその作品は店頭に並ぶことはないということが、インタビューという仕事を通してきっとわかるだろう。

 さとう氏宅からの帰り道。私とKさん、そしてAさんはとりあえず講談社に戻ろうと、来た時と同じ車に乗っていた。
 辺りは暗くなり始めており、飯を奢ってくれても罰は当たらなそうな時間である。
「ところで、工藤君」
 助手席に乗っていたAさんが右肩をぐっとこちらに向けて言った。
「青い鳥文庫の話なんだけどね、どう?」
 この時までは社交辞令もあるんだろうな、話半分に聞いておくかなと思っていたが、これだけ繰り返され、ようやく(本気なのかな)と感じ始めていた。
 金田一の仕事ももう終盤。ここまでほぼノーミスという感じでこなしてきていたから、自信もかなりついてきた。このチャンスを逃したら、金田一は青春の思い出で終わるかもしれない。本気の決断をする時だった。
「やらせていだたけるなら、やります」
 赤を点灯させている信号機が近づいてきて、車はゆっくりと止まり、サイドブレーキがぎゆっと掛かる音がした。
「最近、ずっと考えているキャラクターがいてね、工藤君みたいな若い人に料理してもらえるといいなぁと思っているんですよ」
 Aさんがゆっくりと本題に入っていく。
「はやみねさんの夢水清四郎(はやみねかおる氏の著作に出てくる名探偵)はわりと掴み所のない男で、その辺が女の子に受けているんだけど、なんていうのかな、アウトローっぽい男っていうのもいいんじゃないかと思うわけ。まあ、最近だったらGTOの鬼塚英吉だよね。その辺で何か面白いミステリー書けないかな? 工藤君の感性で」
 Aさんから具体的な話が出てきたのはこれが初めてだった。当時、GTO全盛期で、はちゃめちゃだけど心は熱い男というのが受けていた頃だった。
 そういう男が出てくるミステリー。具体的にどう書けばいいのか即座に思い浮かばなかったが、面白そうではあった。
「いいかもしれないですね」
「じゃあさ、その辺でプロット作ってくれないかな。金田一が終わった後に、一度ちゃんと打ち合わせしようよ」
 打ち合わせ。この言葉も初めてだった。
 ひょっとしたらではなく、本気の本気で俺は小説家になれるのかもしれない。
 実際、俺は今、金田一少年の事件簿を描いている人に会って、こうして講談社の編集者と一緒の車に乗っている。噂の真相ではなく、本物の業界の裏話も聞いている。今の俺にとって、小説家という地位はそんなに高いものではないのではないか。すぐそこにあるものなんじゃないのか。
 そんなことを思っていると、
「工藤君もいよいよ作家だね」
 と、Kさんが笑いながら言った。
 やがて信号は青になり、車は緩やかに発進した。

 それから三日後。
 今度は、金田一少年の事件簿原作者「金成陽三郎」氏に講談社でインタビューすることになった。
 そして、このインタビューで私が行った大胆不敵な演説が、小説家デビューへの歩みを一層加速させたのである。

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