第二十五回 週刊少年マガジン編集部 その2


「それじゃ、金成さんが来たみたいだからマガジン編集部に行こうか」
 Aさんの一言で私とKさんは席を立った。
 児童局を出てしばらくいくと古いエレベーターがある。ちょうど来たので急いで乗り込み、何階か上がって降りた。
 そこからまた廊下を歩いていくと、突きあたりに児童局とはまったく違う、どこか物々しい雰囲気の部屋があった。扉はないのだが受付とついたてがあり、中の様子がまったく見えないのだ。あまりうまい表現が出来ないのだが、妙に重苦しい空気を感じた。もっと身近な感じで言うなら、高校の職員室っぽい。
「ここはなんですか?」
 足を止め、首をちょっと伸ばしながら私は言った。
「あ、ここ?」
 Aさんが笑顔で言う。
「フライデー編集部だよ」
「……ああ」
 咄嗟にたけし軍団襲撃事件のことが思い浮かんだ。
(そうか、中を見えなくしているのは、外部の人間にここがフライデー編集部だと簡単にわからせないためか)
 そうかもしれないし、どうではないのかもしれない。だが、ここだけ明らかに閉じている印象を持っているのは間違いない。
 こんな機会はもう二度とないかもしれないし、ちらっとでも中を覗いてみたい衝動に駆られたが、Aさんに迷惑を掛けてしまうことになるのでやめておいた。
 その後、私たちは妙に入り組んだ通路を長々と歩いた。
 よく、テレビ局はクーデター対策のために中が迷路になっていると言われるが、講談社の中もやはりそのような対策が取られているのではと思えた。分岐点がいくつもあり、通路は上下していて10分も歩いているとどこからどう来たのか思い出せなくなってしまう。
「随分歩くなぁ」
 私はそう呟きながら左右をきょろきょろと見た。
「あ、ここだよ」
 細い通路を抜け、広い通路に出るとAさんはそう言って、足を止めることなくずんずんと歩いていく。そこから更に右へと行ったところに週刊少年マガジン編集部はあった。
「都丸君はいるかな」
 そんなことを言いながら入っていくAさんに、私は恐る恐るといった感じで付いていく。
 学校の教室を4つか5つぐらいくっつけた大きさのマガジン編集部は、児童局ともフライデー編集部とはまた違う雰囲気があった。なにが違うってその活気だ。児童局の人間はAさんを残して全員帰ってしまっていたのに、ここは全員残っているのではないだろうかというぐらい、そこかしこに人が溢れている。煙草の煙が充満しており、机には原稿や本、書類、資料の山。暇そうにしている人はおらず、全員が電話を掛けていたりキーボードを叩いていたり、なにかしらやっている。
 私はふと壁に掛けられている出勤ボードを見た。名前が書かれているプレートが掛けられていたのだが、ほぼすべて表。黒板だったか、ホワイトボードだったかは忘れたが、連絡表みたいなものにはあれやこれやとぎっしり文字が書かれている。
「Aさん、どうも。すいません、ちょっと遅れてしまって」
 しばらくすると、都丸氏がいつものように落ち着いた雰囲気でやってきた。
「インタビュー、すぐ出来るの?」
「あっ、ちょっと待って下さい」
 都丸氏は困ったような笑みを浮かべ、両手をあわせる。
「まだ打ち合わせが終わってないんですよ。とりあえず、そこにある部屋で待っていてもらえますか? すぐ、すぐ終わらせますから」
「えっと、外に出たところにあるとこね」
「ええ。なんか、本当にすいませんね、長々とお待たせしてしまって」
 都丸氏は相変わらず腰が低かった。
 私は恐縮しながら会釈をして、指示された場所へと向かう。編集部とは目と鼻の先、押せば倒れそうな壁に囲まれている六畳ぐらいの自習室のような部屋である。私の記憶だと、パイプ椅子と机、テレビが置いてあったような気がする。
 すぐにコーヒーが運ばれてきて、私たちは飲みながら都丸氏と金成氏が来るのを待った。
「あの、ところで……」
「ん?」
 私はずっと気になっていたことがあった。
 ここまでずっと聞きそびれていたのだが、もう時間がないと思い切って口を開いた。
「金成さんってどういう人なんですか?」
 Aさんは軽く唸った後、言った。
「僕も会ったことないんだよなぁ」
「そうですか……」
「なんか気になることでもあるの?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど」
 私は頭を掻きながら金成氏にする質問の再チェックを始めた。
 有名人にインタビューするというのはとにかく難しい。私は有名人に会う仕事があるたび、(いい人でありますように)と祈っている。祈りが通じているのか、幸いにして嫌な有名人に会った経験はこれまでないが、ごくごくたまーに漏れ伝え聞く「そういう人」の話は最悪である。
 この時の私は、あくまでも「金田一少年の事件簿 謎ときファイル2」という本を執筆中の人であり、本を出した実績はまったくない。はっきり言って素人だ。
 アルバイトだった自分と、講談社にいる自分がうまく一致せず、どこかふわふわしていて、自信もあるようなないようなという変な感じだった。
(俺なんかにうまくこなせるのかな……)
 そう思いながら深呼吸をし、質問が書かれた紙の上で両手の指を絡ませた。
「あ」
 誰かが声を漏らした。隣にいたKさんが立ち、私も慌てて立つ。
「遅くなりまして」
 そう言った都丸氏の後ろから、眼鏡を掛けた人が姿を現した。体格のいい男性だった。年はKさんと同じぐらいか、やや上という感じがする。有名人っぽくないというか、お金持ちっぽくないというか、自然な雰囲気を持っている人だった。
 その男性は笑顔で会釈をすると、ゆっくりとした調子で言った。
「どうも、金成です」
「こんばんは」
 私とKさんも頭を下げて挨拶をする。
「紹介しておきます。えーと、こちらの方が『謎ときファイル2』の編集を担当するKさん、そしてこちらの方がライターの工藤さんです」
 都丸氏の言葉の後、金成氏はすぐにポケットから名刺入れを出し、中から名刺を取って私とKさんに渡した。

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