第三十三回 最初のプロット


 プロットを考え始めて一週間ほど過ぎた。児童小説とミステリの合体系が掴めないまま、時間だけが空しく過ぎていく。
 身長57メートル、体重550トンのコンバトラーVみたいな怪人を出して、そんな怪人がどうして現存しているのかという謎を論理的に解かせるか。しかし、どう考えても無理だろう。
 先生が怪盗で生徒(女の子)も怪盗というのはどうだ。先生の格好はタキシード山本仮面さまみたいにして、生徒はセーラー服。ある日、先生が危機に陥り、ライバルである生徒が救出に行く。……いや、なんかピンと来ない。
(もう、こうなったらタイムトリップ物かなぁ……)
 私は部屋で仰向けに寝ころびながらそう考えた。困った時のタイムトリップ物。
 なんらかのきっかけで、学校の生徒、教師が戦国時代にタイムスリップし、そこで有名武将と交わりながら、突如起こった連続殺人事件の謎を解く。オリジナリティには欠けるが、子供は読んで楽しめるのではないだろうか。
 早速、パソコンを立ち上げてキーボードに手を乗せた。だが、ここで重大な問題に気がついた。
(……プロットって、何をどうやって書いたらいいんだろう?)
 今まで小説を書く時は、ノートに登場人物の名前と性格、おおまかなストーリーを記しただけだった。例えば、メールフレンドなら、登場人物の名前と性格を決めた後、

 ある日、メーリングリストに殺人予告メールが投げ込まれる。お互い、疑心暗鬼になる。どうなるか?

 ぐらいしか書かない。あとは頭の中で全部考える。部分部分でメモはつけるが、全体的なストーリーを紙に落とすと、柔軟性がなくなるというか、パズルの組み立てが行き詰まりやすいというか、どうも駄目なのだ。
「いやー、とりあえず僕の頭の中に話があるので、もう書いちゃっていいですか?」
 で通用するなら有り難いが、まず無理だろう。
 ゆっくりと立ち上がって手についたほこりを払った後、とりあえず、押し入れに突っ込んであった赤塚不二夫のまんが入門を取り出した。小学生の頃、漫画家になりたいと思って、この手の本を何冊か買っていたのだ。
 ざっと読んだが、起承転結の付け方はこうしよう、ということは書かれてあるものの、「編集者に見せるプロットはこう書こう!」なんていうのはない。それよりなにより、この本を真面目に読んでいた頃は下手くそな漫画を描いて先生に見せていたな、とか、結局、アルト笛がまともに吹けなかったなとか、トイレの掃除の時に見つけた、壁一面についていたうんこはなんだったのかなとか、小学生時代の思い出が蘇ってきて胸がいっぱいになり、プロットなんて考えられなくなってきた。
 いかんいかんと首を振り、書店と図書館へ行って、文章創作についての本を何冊か読んでみたが、やはり、「編集者に見せるプロットはこう書こう!」はなかった。
 Kさんに電話して聞いてみようか。しかし、Kさんも忙しいだろうし、小説を書いていたという話は聞いたことかないから、困らせてしまうだけかもしれない。ならAさんに聞くか。いや、いきなり、「プロットってどう書いたらいいんですか?」なんてかっこがつかない。
 困った末、私は開き直って登場人物の紹介と結末までのストーリーを書くことにした。残念ながらこの時のプロットは手元になく、具体的なストーリーもよく覚えていないので、架空小説のプロットを適当に書き、参考資料として載せておく。

あの時も今も、工藤圭はこんな風にプロットを書いている

プロット

『登場人物』

笹崎 浩介

 20歳。心理学部に通う大学2年生。5年前に起きた連続殺人に巻き込まれた過去を持つ。自分のことについてはほとんどん喋らない。少食で菓子パン1個と牛乳というのがお決まりの食事パターン。

伊地知 菜々子

 16歳。普段はおとなしく、何事にも一途な女の子。親友を殺されてしまい、自分をストーキングしていた同級生の仕業だと考えて、復讐を決意し、誤って浩介を標的にしてしまう。

伊地知 美咲

 14歳。奈々子の妹。両親は飛行機事故で亡くなっていて、奈々子と二人暮らし。明朗活発で姉とは反対の性格。それでも仲はいい。

高元 千香

 浩介の恋人で同級生。正義感が強く、面倒見がいい。男勝りのところもあったが、浩介の前では甘えていた。5年前、子供を救うために犯人を取り押さえ、浩介に撃たれて亡くなった。

真壁 浩美

 16歳。奈々子の親友。見た目は奈々子より幼いが、行動力があり、大人びている。奈々子の目の前で何者かに殺される。

針馬

 奈々子の恋人が殺された事件を捜査している刑事(警部補)。奈々子がやったのではと考えている。

坂之上

 針馬の部下。

野々山 公彦

 17歳。高校2年生。友人もなく、ひたすら奈々子につきまとっている。

四谷 誠

 サラリーマン。真壁の親友で、奈々子を心配している。

『ストーリー』

 笹崎浩介は訪れた田舎町で、突然、見知らぬ女性(伊地知菜々子)に「あなたがやったんだってわかっているんだから!」と言われて、ナイフで刺し殺されそうになる。
 浩介は興奮状態の奈々子をなんとかなだめて事情を聞き、ようやく真相を知った。
 奈々子の親友は何者かに殺されたのだが、奈々子が犯人だと思っている人間(野々山公彦)と浩介の背格好が似ていたのだ。
 浩介と奈々子は二人で事件を調べるが、村人達は浩介を見ると、逃げるように家に入ってしまう。幼い子供に「お兄ちゃん、人殺しなんでしょ?」と言われたとき、浩介は奈々子にすべての事情を話した。
 5年前、浩介が中学生の時、彼は連続殺人事件に巻き込まれた。密室状態と化した家の中で銃を乱射する犯人。その犯人から赤ん坊を守ろうと、犯人を取り押さえ、「私と一緒に犯人を撃って!」と叫んだ女性がいた。浩介の恋人、高元千香である。浩介はためらうが、結局、瀕死の重傷を負った警官の拳銃で千香と犯人を撃ってしまった。
 千香は奈々子が住んでいる村の住人で、村人たちは浩介に対し、いい感情を持っていないのだ。浩介はそのことを承知で、犯人がどうやって拳銃を手に入れたのか、それを調べに村にやってきたのである。

 奈々子の親友が殺された事件を探っていた針馬警部補は、奈々子たちの行動を怪しみ、監視する。
 浩介は、奈々子をストーキングしている野々山に疑いの目を向ける。そんな時、放課後の学校で奈々子がトイレに閉じこめられた。野々山の仕業だ。
 学校に乗り込んだ浩介は見事、奈々子を助け出す。そこに奈々子の殺された親友の恋人、四谷が現れた。野々山は四谷を指し、奈々子に向かって叫ぶ。「あいつがおまえの親友を殺したんだ」と。四谷は野々山の言葉を認めて、隠し持っていた鉄パイプで野々山、浩介を殴り、奈々子に迫る。
 そこに刑事の坂之上が駆けつけた。四谷を殴りつける坂之上を見て助かったと思った奈々子だが、坂之上は笑いながら言った。「君の親友は、私が押収した拳銃の横流しをしていたことを知っていた、だから、バイヤーの四谷と共謀して殺した」と。絶体絶命の状況で、浩介はなんとか立ち上がり、坂之上と格闘して彼を押さえつけた。

 坂之上、四谷、野々山が警察に連行された後、浩介は駆けつけた針馬警部補にしばらく一人にしてくれと頼んで、音楽室へと行く。そして彼は一曲、ぎこちない手つきでピアノを弾いた。千香のためにずっと練習していたバラードだった。
 奈々子はその様子を見ていて浩介に惹かていると自覚するが、浩介の心に千香が残っていると感じて、何も言えない。

 村から帰る日、浩介が千香の墓参りをしていると、奈々子が現れた。
 見つめ合ったまま、時間が過ぎていく。

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