第四回 折原みとと小林深雪の研究


 本屋に到着すると、私はかなりの気恥ずかしさを伴いながらも、少女小説コーナーへと足を進めた。
 レンタルビデオ屋の、カーテンで仕切られた18禁コーナーに入るのとは、開き直りの有無という点で大きく違う。
 幸いにして、周りに客がいなかったのだが、それでも猫背になってしまうのは、明らかに場違いな自分を自覚しての行動だろう。
 目に入るのは、ピンク色の背表紙ときらびやかな表紙。そして、ハイテンションな口調で帯に書かれたコピー。

 あたしと恭平クンは仲の悪い幼なじみ。でも、ほんとはあたし、あいつのことが好き。……どうしたら素直になれるのカナ……? 神様、あたしを助けて!!

(うわぁ、定番だ……)
 そんなことを思いながら、とりあえずどんな作者の小説が多いのかなと、目を棚に巡らせた。
(折原みとか。確か、時の輝きっていう小説書いた人だったな。うちの妹が前に読んでた。小林深雪……。んー、この人は聞いたことないなぁ……えっと、後は……ありゃ、これだけかよ)
 平積みされている本は、いろんな作者の新刊が置いてあるのだが、棚には折原みとと小林深雪の本だけしかなかった。つまり、明らかにこの二人がダントツに売れているということだろう。
 この二人の本の数は半端ではなく、二人で100冊は書いているんではなかろうかという膨大さ。二人赤川次郎状態という感じだ。
(どれどれ、どんな内容なのかな)
 私は、折原みとと小林深雪の本を適当に手にとって、開いて流し読みしてみた。

 私、中川亜矢子!
 中学2年生です。
 部活はえっと……書道部にはいってるんだぁ。
 ほんとはテニスが好きなんだけどね☆
 え? じゃあどうして書道部に入ってるのかって?
 それはぁ……憧れの天童先輩がいるからなのでーす☆
(↑は私の創作であり、こんな感じだったということです)

(……やっぱりな)
 文体は、私が以前から思い描いていたとおり、句点(「。」)が来ると改行していた。しかも、文が普通の小説より遥かに短く、まるで詩のようだ。
 内容的にはどれもこれも同じような感じで、27歳の男としては、よくこんな普遍的なテーマで、何十冊も量産出来るなと感心してしまう。
 私はとりあえず本を元に戻して、男性作家が書いた少女小説を探してみた。文体、内容、共に参考になりそうだ。
(とりあえず、名前的にこれは男性作家かな)
 少女小説やファンタジー小説の類を書いている男性作家の皆様というのは、妙に中性的なペンネームで混乱させてくれる。本人も自覚しているようで、「よく、女性と間違えられるんですが、男性なんですよ」などと巻末に書いてあるが、それを承知で付けるあのペンネームは、一体何を狙ってのものなのか、一度聞いてみたいところだ。

(ほほー)
 男性作家の文体は、やはりいかにも男が書いたとわかるものだった。
 具体的に女性作家の文体との違いは、口語体を一人称の語りでも使っているか否かである。
 わかりやすく書くと、女性作家の場合、

「えっ!? うそでしょーーーー????」
 信じらんないーーーーーっ!! あの、究極お嬢様、伊集院麗子がAVに出てたなんて!! まじ、超大ショック!!

 という感じで、全編口語体という、二葉亭四迷も真っ青という感じなのだが、男性作家の場合、同じ内容を書いたとしても、

「えっ!? うそでしょーーーー????」
 あたしは本当に驚いた。あの、究極のお嬢様として名高い伊集院麗子が、AVに出ていたなんて……。信じられないほどのショックを受けながら、微かに身体を震わせた。

 と、会話文と語りの文章を微妙に分けているのだ。
 思うに、女性作家の場合は、少女小説をずっと読んできて少女小説作家(ようは、純粋培養系の少女小説作家)になり、男性作家の場合は、昔はかなりまともな純文学やら推理小説を書いていたけど、路線変更して少女小説を書き始めたという感じで、それによって文体の差異が生じるのではないだろうか。

 とにかく、折原みとと小林深雪が支持されているということはよくわかったので、私はその辺を参考に、家に帰って、早速ストーリーの構築に入った。

目次へ

▲このページの先頭へ戻る