第五回 少女小説に対する苦悩と妥協


(さあ、プロットを作るか)
 私は、2万円で買ったウクレレで「なごり雪」などをしんみりと弾きながら、おもむろに考え始めた。
 ただ単に、自分のことを「チビでデブでブスで……」などとマイナス思考に考え、それでいて、他人からは“まったくそうは見えないんですけど”という外見のヒロインが織りなす、超ご都合主義恋愛小説を書くのはつまらない。
(なんかこう、一風変わった設定を入れたいんだよなぁ……)
 そんなことを考えつつ、なごり雪もサビの部分に入ってきた時、私の脳裏に本屋で見た、あまり思い出したくない絵が浮かんできた。
(やおい……)
 そう。最近の少女小説を仕切る男の同性愛小説。“やおい”とは決して矢追純一のことを言っているのではなく、同性愛物のストーリーの特徴である「山なし」「意味なし」「オチなし」の頭文字を取ったものだと聞いたことがあるが、それ系の小説に目を通したことがないので、その辺はよくわからない。
 とにかく、一部に絶大な人気があることは私も知識として知っていて、本屋でも、それ系の小説が平積みにして積んであった。表紙の絵は、あからさまに美男同士が隣り合っているようなもので、(これ、絶対に現実見てないよ)と言いたくなる感じだ。
 それにしても、どうして少女小説を読む女性たちは、これほどまでに男の同性愛を支持するのだろうか。かっこよかろうが、キャプテン翼だろうが、私からするとまったく想像したくないし、見たくない世界だ。
 以前、働いていた職場に同性愛者のカップルがいたのだが、二人とも30を越したおじさん同士で、どう贔屓目に見ても小説のカバーを飾っているような容姿の人たちではなかった。それが現実というものだろう(無論、やおい小説愛読者の皆様も、現実と物語は完全に切り離して考えていると思うが。性意識というより美意識が先行しての嗜好なのだろう)。
 というわけで、やはり、いくら需要があっても、この世界だけは避けたい。
(そうなると、ファンタジーとかSFの要素とか、かなぁ……あと、ミステリーとか。うーん)
 そんなことを考えながら唸っていると、押し入れのウインナー君が目覚めたらしく、彼が回し車が回す音が、カラカラと聞こえてきた。
(あ、餌やんなくちゃ)
 そう思って傍らの餌に手を延ばした時、ふと思った。
(待てよ。ハムスターが出てくる小説っていうのは、結構時流に乗っていていいかもしんないぞ)
 そうだ、今、ハムスターは結構流行っているし、漫画ではよくあるけど、小説で主人公というのはなかなかない。
 私はすぐ様、ハムスターを軸にストーリーを組み立て始めた。私が応募する賞の主催雑誌が「やおい系」「ファンタジー系」だったら完璧にアウトだが、どちらも私には書けないのだから、とりあえずこれでやってみるしかない。
(ただ、ハムスターが出てくるだけじゃ面白くないな。いろんな要素を絡めよう)

 それから約2週間後。私は、妹の持っていた少女小説を読みながら文体を変えていき、徹夜徹夜の連続の末、規定枚数オーバーぎりぎりの、400字詰め原稿用紙に換算して97枚という「あたしの彼はハムスター」を完成させた。
 高校2年生の少女と、3年前に彼女に告白して振られた挙げ句、交通事故で死に、それから、ジャンガリアンハムスターに生まれ変わってしまった少年が織りなす、冒険とミステリーと恋愛を強引に絡めた小説である。
(こんなんでいいのかな)
 はっきり言って、そう思った。しかし、世の中、駄目だと思ってもやってみなくちゃわからないこともある。
 そして、締め切り日当日。私は、よれよれの封筒の中へ、校正に12時間かけた「あたしの彼はハムスター」をしまい、郵便局へと向かった。

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