第六十二回 舞い込む依頼 その2 ~18禁ゲーム編~


(本の宣伝というと、やっぱり新聞広告だったりするのかな。新聞に俺の名前が出たら気分いいだろうなぁ)
 と夢想しつつ、今後ともよろしくお願いしますとMさんと別れた。

 それから間もなく、今度はこんな感じのメールが届いた。

 初めまして。サンダーバード・ドリーム(仮名)のZと申します。いつも工藤さんのホームページを拝見させていただいています。
 実は今回、仕事のご依頼をいたしたくメールをいたしました。工藤さんはご存じないと思いますが、サンダーバード・ドリームはつい先日、第一作を発売したばかりのアダルトゲーム制作会社です。第二作を作るにあたり、さっか道を読んでこの方なら書けると強く思いました。是非、私どもにご協力いただけませんでしょうか。よろしくお願いします。

(サンダーバード・ドリーム……?)
 宇宙企画、九鬼、アリスJAPANなど、アダルトビデオのブランド名はすらすらと出てくるが、18禁ゲーム会社はほとんどわからない。当時、私が知っていたのはエルフとアリスソフト、そして「天使たちの午後」で中学生の私の心をがっちりキャッチしたジャストだけだった。サンダーバード・ドリームという会社はまったく聞いたことがない。本当に存在しているのだろうか。だいたい、なんでさっか道を読んで18禁ゲームのシナリオを依頼しようと思ったのだろう。人違いか、それとも悪戯メールなのか。
 高松君にメールしてみると、「俺、今度パソコンショップに行く用事があるから、その会社のゲームがあるかどうか見てくるよ」というのでお願いした。
 数日後、高松君から「サンダーバード・ドリームのゲームだけど、ちゃんと置いてあったよ。タイトルはなんだっけかな。メモするの忘れたけど、確かに置いてあった。専門的なことはよくわからないけど、パッケージを見た限りでは絵とか綺麗だったよ」というメールが届いたので、Zさんに返事をすることにした。

 こんにちは。メールありがとうございました。正直、18禁ゲームは同級生シリーズぐらいしかやったことがないものでどうシナリオを書いていいのかよくわからないのですが、お仕事を受ける受けないという返事は大変申し訳ないですが今回は保留させていただくことにして、質問だけしてよろしいでしょうか。仕事の内容なのですが、具体的にどういったものになるのでしょうか?

 仕事に関するメールというのは、返事のスピードで相手の意気込みというかやる気が伝わってくるが、Zさんの返答メールは私が質問メールを出したその日に来た。

 お返事ありがとうございました。仕事の内容ですが、工藤さんにはまず、キャラクターを作っていただきたいと思います。こちらで検討させていだたいてOKということになったら、シナリオ執筆ということになるかと思います。工藤さんが住んでいる所とうちの会社はかなり離れていますので、基本的にメールとFAXで進めていって、大事な部分、たとえばアフレコなどには立ち会っていただきたいので、弊社に来ていただきたいと考えています。
 ギャラに関してですが、キャラクター一人につき2万円をお支払いし、シナリオに関しては原稿用紙1枚につきいくらという形になると思います。よろしくお願いします。

 18禁ゲームのキャラとシナリオを作るというのも面白そうだが、アフレコに立ち会うというのも楽しそうだ。高校生の時、バレー部レギュラーの草田君(仮名)が、「エロいアニメの声やってる人ってさ、やっぱ胸とかもまれながら声出してんのかな」と言っていたが、そういうことは絶対にないだろうにしても、どういう現場でどういう風に声を出しているのかというのは一度見てみたい。声優さんと話すことが出来れば、とてもいい経験になるだろう。
 名前は仮名にして、講談社と角川書店と某出版社の仕事が終わったら本格始動でいいですかと聞いて、それで構わないと言うのでとりあえずキャラクターとプロットだけ作ることにした。

 上でも書いたが、私は18禁ゲームはDOS/V専用で出た同級生シリーズぐらいしかやったことがなかった。さすがにそれじゃまずいだろうということで、中古のパソコンソフトが置いてある店で何本か購入してやってみた。もうほとんどがWindows専用になっていたので、プレイするのは同級生より遥かに楽だ。
 全部終わらせてみて、18禁ゲームには法則というか、なんとなく決まった流れがあることに気づいた。

私が昔よく見た18禁ゲームの流れ

 とりあえず主人公の長い独白から始まる。

「両親がロンドンへ行ってもう二週間が経とうとしている。最初はひとりで家にいるとなんとなく退屈だったが、今はずっとこのままひとりで暮らせないかなと思っている。もともと、他人と話すのが苦手だし、ひとりというのが自分に合っているのかもしれない。学校でも俺は大抵ひとりだ。ナンパがうまくいっただの、クラブへ遊びに行っただの、別に聞いてて面白くないような話を自慢気にする奴と、それを聞いて喜んでいる奴らの輪に入ろうとは思わない。それに俺はすべての感情が表情に出てしまう。つまらなそうな顔をしている俺にいられても、連中は迷惑だろう。(長いので以下略。要約すると毎日が面白くないし、将来特にやりたいこともない)」 ◇

 そんな彼にも、小学校からの親友(イケメンで女好き)と幼なじみのガールフレンド(ボーイッシュで運動部所属)という二人の理解者がいる。

「おいおい、また考え事か? いつもそんな難しい顔してっから、女が寄ってこねえんだよ」
 椅子を180度回転させて、ドレッドヘアで耳に青いピアスをした男が俺の前に座った。
「おまえと一緒にするな」
 こいつの名前は三神憲治。小学3年生の時に隣の席になってからの付き合いだ。いつも女ばかり追いかけ回していて、一カ月ごとに付き合う女性をかえている奴で、人付き合いが苦手な俺とは正反対の性格の持ち主だがなぜか馬が合う。 ◇

「あれ、もう帰るの?」
 大きく伸びをした後に首をこきこきと鳴らして鞄を肩に掛けると、セミロングヘアの女の子がどこからともなく現れて、俺の前に立ちふさがって言った。
「ああ。学校に残っていてもやることないしな」
「はあ。まったくいい若いもんがそんなんでいいの? まったくこれだけから朝寝坊して遅刻ばっかりするんだよね。せっかく、あたしが起こしに行ってあげているのにさ。毎日運動すれば、夜の11時ぐらいにはぐっすり寝られるよ」
 女の子――白鳥沙貴はわざとらしくため息をついて、俺の顔を見上げた。沙貴と同じクラスになったことはないが、隣の家に住んでいて、なにかというと世話を焼いてくる。 ◇

 屋上辺りでぼうっとしていると、容姿端麗、成績優秀のヒロイン(ロングヘア)が主人公に「君付け」で話し掛けてくる。

「あの……仲西君。今ちょっといい……かな?」
 鉄の柵に体を預けて山を見ていると、髪の長い女の子が歩いて来て、俺に向かって言った。かすかにいい匂いが漂ってくる。

「うん。いいよ。なんか用?」
「よくないって言ったら?」 

「よくないって言ったら?」
 ちょっとからかってやろうと悪戯心が働いて、わざとぶっきらぼうに言ったら、彼女は困ったような顔をして俯いてしまった。神崎菜々美。愛くるしい笑顔と誰にでも優しい性格で学校のアイドルと言われている。去年、委員が同じになって話すようになったが、ある事件があってから、ずっとご無沙汰だった。 ◇

 他にも、本好きの子(よく貧血になる)、後輩の女の子(元気でやきもち焼き)、お嬢様(高飛車)、二十代後半の美形女性教師(酔っ払うと乱れる)など、いろいろな女性が出てくる。

「きゃああああ、せんぱ~~~~~い!!」
 帰ろうとした俺の耳に、甲高い声が届いたかと思うと、目の前で土煙がもうもうと上がり、女の子が思いっきり抱きついてきた。
「うわわわわっ」
「も~う、男子トイレまで探したんですよっ。今日は美優と一緒に帰るって約束したじゃないですかぁ」
「そうだっけ?」
「そうだっけってなんですか! あたしとの約束って、先輩にとってはどうでもいいことなんですか!?」
 美優ちゃんはそう言って、うるんだ瞳で俺の顔を見つめた。 ◇

 それぞれの女の子に事件が起きて、たまたまそこにいた主人公が事件に関わって、女の子が身の上話を始めて最終的にセックスを始める。

「あたしのせいで負けちゃったんだ、試合」
 ティーカップを両手で持ちながら沙貴はそう言った。そして、涙をこぼし、小さな肩を震わせた。
「沙貴」
 俺は思わず沙貴を抱き寄せた。
「康平……」
「いつもおまえに元気づけられていたよな。だから今度は……」
「あ……」
 沙貴の腰を抱き寄せ、ベッドに押し倒す。
「きゃっ」
 彼女は短い悲鳴を上げ、ちょっとびっくりしたような顔で俺を見たが、すぐに何かを覚悟するかのように目を瞑った。 ◇

 あれだけやる気がないだの、つまらないだの、決められたレールの上をだの言っていた主人公だが、セックスをする時だけ妙に積極的になる

「こんなに濡れているじゃないか」
「恥ずかしい……見ないで」
(以下自主規制)

 幼なじみだけではなく、学校の先生、本好き、後輩、お嬢様と来て、最後にヒロインともやり、最終的にヒロインと結ばれる。

 終わり。

CG素材 樹乃樹企画様
http://member.nifty.ne.jp/Juno

 無駄に長く書いたが、ようするに「無気力な主人公が、特に努力をせずに複数の女性とセックスをする」というのが基本なのだ。さすがに今の18禁ゲームはこんなに単純ではないと思うが、昔、中古店で安く売られていた18禁ゲーム、少なくても私がプレイしたゲームはどれもこんな感じだった。
 主人公が無気力なのは、必要以上に色を付けてプレイヤーと主人公を剥離させないためというのもあるだろうし、ゲーム会社が想定しているプレイヤー像がそうだからというのもあるかもしれない。

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