第七回 編集プロダクションからのメール


「あたしの彼はハムスター」を、推敲含めて書き終わったのは締め切り日当日の午後0時だった。私の記憶だと、3月31日ではなかったかと思う。
 コーヒーをがぶ飲みし、下書きの原稿(赤でチェックを入れている)とパソコンの画面に映っている完成原稿を見比べつつ、徹夜で原稿を推敲(単純に書くと見直し)した私は、すぐ様それを封筒に入れ、近くの郵便局へ持っていき、書留で出した。応募先は、角川書店が出している雑誌「小説ASUKA」の主催する、小説ASUKA新人賞である(ここまでは第五回とかぶっています)。
「今日、書留で出したら今日の消印付きますよね?」
「ええ、付きますよ」
 その言葉に私は安心し、原稿の入った封筒を局員に預けると、眠気でしょぼしょぼになった目をこすりながら、郵便局を後にした。
(あー、もうあの原稿は見たくない)
 というのが、この時の私の率直な気持ちだった。実際、私はこの作品を書き上げてからは、一度も通して読んだことがない。推敲の段階で100回以上目を通したため、見飽きたのだ。
 とにかく大変だったのが“女の子の一人称という文体を破綻させないこと”である。前回、あたしの彼はハムスターの一部を掲載したが、あれを読めばわかる通り、話はすべてヒロインの由佳を通して進んでいく。彼女が情景や状況を喋り、説明するのだが、万が一、ここで“あー、これは男が書いた文章だな”と思わせると、小説自体が破綻してしまう。この事態だけはどうしても避けねばならないため、推敲は熾烈を極めた。
 例えば、タイトル。「の彼はハムスター」ではなく、「あたしの彼はハムスター」としたのも、十代の女の子はほぼ間違いなく自分のことを「私」ではなく、「あたし」と言う所から付けたものである。「私の彼はハムスター」としてしまっては、まさに男が付けたタイトルであり、読者層であるローティーンの女の子が入っていけないと考えたのだ。

 さて、それからしばらく経ったある日。今でも覚えているのだが、ハリソン・フォード主演の映画「逃亡者」をフジテレビでやっていた日のことである(今確認してみたが4月10日)。
 いつものようにインターネットにつなぎ、メールチェックをしていると、ちょっと変わったタイトルが目に飛び込んできた。

『金田一少年の事件簿 謎解きファイル2』刊行に関するお願い

(なんだこれ?)
 なんのことやらさっぱりわからず、メールに目を通す。

『金田一少年の事件簿 謎解きファイル2』刊行に関するお願い

 当社は雑誌・書籍の企画編集を請け負っている編集プロダクションです。
 今回『金田一少年の事件簿 謎解きファイル2』(講談社)の編集をすることになりました。すでに第1弾は発売されているのですが、この本は読者が金田一少年になったつもりで、さまざまな謎やトリックを解いていくという内容のクイズ集です。第2弾でも犯人探し、凶器探し、密室トリック、アリバイくずし、暗号やダイイングメッセージなど、推理モノのあらゆるジャンルをすべて取り入れた本にしたいと考えています。
 そこで、その謎やトリックのプロットを立てていただける方々を探しています。登場人物は、金田一少年の事件簿に登場するキャラクターを自由に使っていただいて結構です。ご協力いただける場合は、下記までご連絡ください。できれば来週の前半(4/15水曜日)ぐらいまでに、ご連絡いただけるとありがたいです。
 よろしくお願いいたします。また、ご不明の点がございましたら、下記お問い合わせ先までお電話ください。

●お問い合わせ先
株式会社****   担当/**** 
〒102 東京都千代田区**** ******ビル5F
TEL 03-****-****
FAX 03-****-****
Eメール ******@***.****.ne.jp

(……)
 私は、このメールを読んだときに感じた胸のときめきを、今でも忘れられない。
 どうして、こんなチャンスがやってきたのか、なぜ自分なのか。私はわけがわからないまま、友人の高松君の家に電話をかけた。
「も、もしもし、工藤だけど、なんか今、メールチェックしていたら、原稿の依頼みたいのが来て……」

 この日、私の目の前に、前髪だけしかなく、一瞬にして通り過ぎるという「チャンスの神様」が現れた。

 そして私は。
 このチャンスの神様の前髪を掴むことになる。

目次へ

▲このページの先頭へ戻る