第20回目の法則 ネット恋愛はこうして終わる


シチュエーション

 恋愛相談系掲示板で知り合った21歳同士の男女。男のハンドル名は「ハク」、女のハンドル名は「姫」。語尾に☆、♪、~、りゅん、にゃあなどを使う「姫(デパート受付嬢)」は掲示板でもチャットでもアイドルだったが、男に振られた傷が癒えていなかった。
 自称反町隆史似の「ハク」はその彼女を守りたいと、チャットとメールで熱烈アタック。最初は警戒していた「姫」も少しずつ心を開き、やがて二人はネット恋愛を開始した……。

メール1通目「おはよ♪」・姫

ハク、おはよ♪ はい、おはようのキスだよ、ちゅっ(はあと)
今日はハク、お仕事なんだよね。帰りは遅くなりそう? もし、疲れてないないなら電話でお喋りしたいな。でも、無理だったらいいよ(こんなこと書いたら、気にするかな?)
昨日はすごいびっくりすることがあったんだよ。年配のお客さんを案内していたら遠くからいきなり花束を抱えた人がズカズカやってきて、「僕と付き合ってください!!」なんて言うの。実は隣にいたさつきちゃん目当てだったらしいんだけど、もー、ちょービックリ。隣にいたさつきちゃんもかなーり驚いてたよ。
でも、さつきちゃん、すっごくかっこいい彼氏とラブラブだからねー、花束持ってきた人は残念でした♪ って感じ

なんかねー、こうやってメール書いていても顔がにやけちゃう♪ 明後日、ハクと会えるんだね。どんな顔しているのかなーってちょっとドキドキしているけど、今なら、どんな姿でも絶対ハクのことを受け止められると思う(ずっと、不安にさせていてごめんね)。
だけど、あたしの方がハクに受け入れられないんじゃないかなぁって。。。
でも、大丈夫だよね☆

ハクのこと、信じてる。
大好きだよ☆

メール2通目「ただいま♪」・ハク

ただいま、恵美(※姫の本名)

電話受けられないでごめんな。めっちゃかけようと思ったけど、同僚と飲んでいてチャンスがなかった。。。Σ( ̄ロ ̄lll)
今日は恵美のキスのおかげかな、今日は仕事で上司に誉められた♪
それにしても、さつきちゃんびっくりしたやろなぁ(;´Д`)(※ハクは関西圏の人間ではない。ネットで時たま似非関西弁を使う東京在住の人間である)
その男もずいぶんと思い切ったことやるな。いきなり花束買うなんて、普通の男には出来へんことやね。
だけど、よかった。え、なにがって? そりゃ、恵美にその男が変なことしなくてってこと。俺がその場にいて、男が恵美に手を出していたらぶっ飛ばしていたかも・・・(笑)。

日付が変わったから、恵美と会えるのもう明日なんや・・・。なんか信じられん(@。@;)。俺はネットで知り合った人と会うのは初めてで、だからめっちゃ緊張するかもしれへんけど、そうなったら許してな(笑)。
毎晩、恵美からもらったプリクラにキスしてるよ(*^^*) だから、俺が恵美のこと受け入れられないなんてこと、絶対ない!! むっちゃかわいいやん、恵美。っていうか、俺にとって恵美は一番。性格も顔も、なにもかも一番!! だから心配すんな!(〃^0^〃)/

愛してるよ、恵美。

メール3通目「安心した。。。」・姫

ハク、おはよ♪ おはようのキスだよ、ちゅっ(はあと)
わーーー、もう明日なんだ。。ハクと会うの。。。ああああ、なんかすっごく緊張してきた・・。
こんなにドキドキしたの、いつ以来かなぁ・・。なんか、幸せとドキドキが入りまじって変な感じ(笑)。

ねー、約束覚えてる? 会ったらぎゅっとしてくれるって。あたし、そのためにダイエットしたんだよ(笑)。

早くぎゅっとしてほしい。もっともっと安心したい・・。

メール4通目「俺も(笑)」・ハク

ただいま、恵美(ちゅっ)

なんか緊張し過ぎて、眠れない(笑)。明日、目腫れているかも(笑)。
恵美と交換したメールを読んでいるんだけど、この俺のメールで324通目(爆) 携帯メールの「おはよう」「おやすみ」も入れると500通超えるかも(@。@;)

約束はもちろん覚えてる。っていうか、忘れるわけないやん!(笑)
恵美のこと、ぎゅうううううううううううううってするから。覚悟しておけよ(笑)。

メール5通目「これから」・姫

ハク、おはよ♪ おはようのキスだよ、ちゅっ(はあと)
これから電車に乗ります。駅に着いたら携帯に電話するね♪

メール6通目「着いた」・男

今、着いたよ。どこにいる??

そして二人はついに顔を合わせた……

ハク
「え、えーと、改札の右側、右側……わかんないな、どこだ?」←携帯を持ちながら

「ハクはどんな格好してる? あたしは……」
ハク
「あ、ちょっと待って」

 ハクの目に、青い傘を手にした内山理名系の可愛い子が映った。

ハク
「も、もしかしたら、青い傘持ってる?」←興奮気味

「うん……え、どこにいるの!? どこどこ?」
ハク
「ここだよ」←手を振る


「……」←ハクは大助・花子の大助似だった

ハク
「ディズニーシー、もう3回目だけど改札なんてあんまりちゃんと見たことないし、ここで待ち合わせすることなかったから」

 姫、笑顔でハクに歩み寄る。


「こんにちはぁ」
ハク
「あ、こ、こ、こんにちは」


「えっと、どうしますか?」←いきなり敬語

ハク
「……え?」

「いや、ほら。もしかしてお腹空いてるかなぁとか思って」
ハク
「あ、大丈夫、出る時食べてきたから」

「(頷く仕草をした後)あたし、ちょっとお腹減ってるんですよね」
ハク
「じ、じゃあ、どこかで……」

「そこにクレープ屋さんがある。あそこで買っていきます」

 姫、早足でクレープ屋へと行き、自分とハクの分、二つ買ってくる。


「食べますか?」
ハク
「う、うん」

 二人、目的地である東京ディズニーシーへと向かう。姫は前方を見据えたまま、まったくハクの方を見ようとしない

ハク
「なんか……あの……」

「え?」
ハク
「い、いや、やけに早足だなぁと思って、はははは」

「そうですか? あたし、いつもこのぐらいで歩いているんですけど。それなら、ちょっとスピード落としますか?」
ハク
「あ、べ、別にいい」

「……」
ハク
「……」

「……」
ハク
「……」

 この後、二人の無言状態はディズニーシーまで続いた。
 そして、ディズニーシーでも黙々と遊び、やがて別れの時がやって来た。


「今日はどうもありがとうございました。楽しかったです」
ハク
「あ、俺も楽しかったよ、うん」←ふと時計を見るとまだ午後6時前

「あ、そうだ、言っておかなくちゃいけないんですけど」
ハク
「うん?」

「実は来週からデパートが改装するみたいで、なんか、あたしも手伝わなくちゃいけないっていうことになってるんです。もう、まったくーって感じなんですけど」
ハク
「そうなんだぁ」

「だから、今までみたいに携帯とかでメールのやりとり出来なくなっちゃうと思うんです。とりあえず落ち着いたらこっちから連絡します。まあ、いつ落ち着くのかちょっとわかんないんですけど
ハク
「あ、うん……」

「それじゃ、今日はどうもでした」←頭を下げる
ハク
「あ、あの」

「はい?」
ハク
「次はいつ会えるのか……な?」

「(少し考えた後)あたし、中途半端なこと言って約束破りたくないんで、ちょっと今の段階ではなんても言えないですねー。ごめんなさい」
ハク
「あ、そうか、うん、わかった」

「それじゃ、もうすぐ電車来ちゃうから行きますね。えっと、ハクは向こうの方だよね。なんか、バタバタしちゃってごめんね。それじゃ」
ハク
「うん、またね」

 こうして、二人は初めてのデート(?)を終えた……。

 姫からのメールはまったくなく、ハクもメール出来ず、三カ月が経過した。
 ハクは何度か携帯に電話を掛けたかいつも留守電。番号通知なのに折り返しの電話がない。夜、二人が会話していたチャットにも姫は姿を見せなかった。いったい、どうすればいいんだ。ハクは考えた末、姫をデートに誘うことにした……。

メール7通目「お久しぶり」・ハク

お久しぶりです、覚えてますか? ハクです。
ディズニーシーは本当に楽しかった。ありがとう。
随分と仕事が忙しいみたいだね。俺の方も最近結構忙しいけど、なんとかやってます。
もしよかったら、また姫と会いたいんだけど、都合の方はどうですか? お返事待ってます。

メール8通目「Re:お久しぶり」・姫

ご無沙汰っ♪
ごめんねー、ハクとメールのやりとりしていた時とは大違いに仕事が忙しくて、毎日帰ってくるとすぐバタンなの。
それでも、さつきちゃんに誘われて合コンに行ったり、あたしって結構パワーあるかも。。

ハクが元気そうでなによりです。これからもお仕事頑張ってね。
それでは。

メール9通目「ディズニーランド」・ハク

本当に忙しいんだね。大丈夫? 体には気をつけてね。
この間、ディズニーランドのパスポートを二枚もらったから誘おうと思ったけど無理っぽいね・・・。

メール10通目「Re:ディズニーランド」・姫

ディズニーランドは無理だなぁ。ごめんね。
お友達を誘って楽しんできて下さい☆

最近、気になる人が出来てちょっとハッピーな姫でした♪

 メールのやりとりをどれだけしようが、好きという言葉をどれだけ交わそうが、初対面の印象によってはすべてが水泡に帰すネット恋愛。
 性格が好きになった、だから付き合うという言葉の後ろには、「あなたが人並みの容姿ならね」と付くことが多い。性格に難ありと思われるのが嫌だから、あえて口にしないだけだ(特に女性)。

 今回のケース、初対面で女性は男性に対して引いてしまったわけであるが、それがはっきりわかるのは敬語よりも「相手の顔を見ない」ことであったりする。並んで歩いている時、自分は相手を見ているのに相手はずっと前を見ながら話していたりした場合、相手はこちらの容姿に対してかなり困惑していると思っていい。そして、会話が弾んだように思えても、何時間も一緒にいられたとしても、食事中や歩いている時、女性がこちらの顔をまったく見ないのなら状況はかなり厳しい。
 だが、予想もしていなかった個性的な容姿だからびっくりしているだけであり、生理的に受け付けないという状態ではない、というのなら、なんとかなるケースもある。

 しかし、姫にとってハクは生理的に受け付けない男性であったようだ。

 ディズニーシーに行った後のメールで、巧みにハクの気持ちを交わす姫。
「合コン」「気になる人が出来た」というキーワードをさりげなく繰り出して、ネット恋愛関係はもうとっくの昔に終わったよねとアピールしているあたり、大変心憎い(実際は、姫が暇になるのを待っている状態であり、恋愛関係は継続しているはずなのだが)。

 ネット恋愛は言葉通り、あくまでもネット上での恋愛であり実際の恋愛には至ってない。よって、その脆さは普通の恋愛関係の比ではないのだ。もし、このままやりとりを続けていったら好きになるかもしれないと思ったときは、特別な感情を抱く前になんらかの方法でお互いの顔を知っておいた方がいい。直接会うのであればコミュニティの主催で行われるオフ会などを利用するのが手だ。そうすれば、今回のケースのようなお互いにとって悲惨な話は確実に減少するだろう。

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