第十一回 選ばれた理由


「えーと、これなんですけどね、ちょっと見て下さい」
 しばらくコーヒーを飲んでいると、Kさんが原稿の束を持ってきて、それを私の目の前に置いた。メールで受け取った原稿をプリントアウトしたようで、綺麗な活字が並んでいる。
「うわ、凄いな」
 それぞれの原稿の左上には、私の名前の他に、早稲田、慶応、京大など、見ているだけで眩しくなってくるような大学名が刻まれている。
「最初、工藤さんにプロットを依頼したのはどうしてかと言うと、『金田一少年の事件簿 謎ときファイル』の1を書いた人が今回は忙しくて無理で、それならインターネットを使って、とりあえずプロット作成者だけでも探し出そうということにしたからなんですよ。うちとしても初めての試みだったんですけどね。まず、メールで大学のミステリー研究会に連絡を取って、その後、『金田一』というキーワードで検索したら、たまたま工藤さんのページがヒットしたんです」
 Kさんが微笑みながら言った。
 どうやらgooなどのロボット型全文検索サーチエンジンを経由して、私のページに辿り着いたらしい。
 この時まで、推理小説専門のページを開いているわけでもない私に、どうして白羽の矢を立てたのか(プロットを依頼する段階)不思議でしょうがなかったが、これで謎が解けた。後で自分のページを見てみると、「使えない(笑) 本格推理トリック研究所 5」に金田一少年の事件簿うんぬんの記述を発見した。どんなことでもとりあえず書いておくものである。
 早い話、Kさんは私の文章(ZEROの法則やエッセイ)を読んで、これならいけるとプロットの依頼をしたのではなく、私のページにミステリーのコーナーがあり、そこに「金田一少年の事件簿」と書かれてあったからという理由で依頼したのだ。
 つまり金田一とミステリーが結びついていれば誰でもよかったのある。それがたまたま私だった。そして私はプロットを全力で作り上げ、本を書くまでに至ったのだ。
 この事実は、実績(ホームページのアクセス数が10万だとか、昔、作文コンクールで優秀賞をもらったとか)などなくても、チャンスが訪れた時に爆発的な力を発揮することさえ出来れば、誰でもデビューは可能だということの証明に他ならない。
「じゃあ、ちょっと読んでみますね」
 私は早速、原稿に目を通してみた。

問題

 ここ数日、毎朝隣室の目覚まし時計がうるさいので文句を言いにいった人が、隣室の住人が遺書を残して首をつっているのを発見したが……。

解答

 自殺する人は目覚ましをセットしない。他殺。

「……」
 正直、私はこの問題をもとにストーリーを作れる気がしなかった。
 原稿の右下を見ると、講談社の編集者によって書かれたと思われる「要再考」の文字がある。
「どうですか?」
 やや不安げなKさんの言葉に、私は右目をさすりながら答えた。
「……なんて言うか、目覚ましをセットした後、発作的に自殺することもあると思うんで、こうやって言い切るのは無理なんじゃないですか?」
「そうですよね」
 Kさんはやっぱりと言った風に頷いた後、ため息をつく。
「この問題は要再考となっているんですけど、他の問題は講談社の編集者からかなりボツを出されて……えーと、工藤さんのもそうです。結局、使えるやつが30ぐらいしかないんですよ。今回の本には、問題を全部で55問入れたいので30じゃ全然足りないんです。だから、要再考というのは出来るだけ残しておきたいんですけど、これはちょっと難しいですよね」
「そうですね……」

 この調子で、要再考問題を含めて残りの問題を検討していった結果、結局使えるものは23しか残らなかった。55には32も足りない。
「23かぁ……きついなぁ。時間がないからなぁ……」
 Kさんが独り言を言い始める。
「2週間だもんなぁ……」
(……2週間?)
 悪い予感がした。
 まさか、2週間で本を書けというつもりなんだろうか。
 問題もすべて集まっていないし、使える問題でもストーリーを再構築しなければいけないという状況で……。
「K君、原稿料のことはもう言ってある?」
 顔をさすっているKさんに、Tさんが言う。
「あ、それは電話で伝えてあります。うちから出す原稿料が50万で、講談社の方のギャラが1プロットにつき1万円だから、工藤さんの場合、80万ぐらいにはなるのかな」
「いやぁ、ほんと安くて申し訳ないです。もうちょっと出せれば出したいんですけど、うちとしてもギリギリで」
 Kさんの言葉を聞いて、Tさんが頭を下げる。
「いえ、もういただけるだけで充分ですから」
 私も右手を何度も振りながら、頭を下げた。

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