第二十八回 校正


(この仕事はいつ終わるんだ、なんでこんなに頑張ってるのに彼女が出来ないんだ、人を殺す方法はあとどんなのがあるんだ、この仕事はいつ終わるんだ、なんでこんなに頑張ってるのに彼女が出来ないんだ、人を殺す方法はあとどんなのがあるんだ、この仕事はいつ終わるんだ、なんでこんなに頑張ってるのに彼女が出来ないんだ、人を殺す方法はあとどんなのがあるんだ)
 と、頭の中で呪文のように唱えていた日々が懐かしい。
 クイズ、解答、インタビュー、企画ページ、まえがきを書き終え、クイズに合う絵探しもほぼ終わった。
 いよいよ、金田一の仕事も終わるのだ。ああ、苦しかった日々よさようなら。某地元工場の皆さん、お世話になりました。編集プロダクションの皆さん、本当にありがとう。レンタルビデオ店のみんな、鈴木麻奈美の新作借りに行くよ。そして俺、明日からプロの物書きでやっていきます!
 漂ってくるコーヒーの匂いを嗅ぎながら、そう宣言したくてうずうずしていると、私同様に疲労している様子のKさんが重い足取りで、紙の束を持ってやって来た。
「工藤君、いいかな」
「はい」
「著者校正をやってもらいたいんだけど」
「著者……校正ですか?」
「うん。君がやった後、一応、こっちでも見てみるけど、君の校正がメインだからしっかりやってね」
 校正。そういや、本を書く時はそんなことをやるとなにかで読んだことがある。
 私はてっきりパソコンで直すのかと思って、日立の液晶デスクトップパソコンを立ち上げたが、Kさんは笑いながら首を横に振った。
「ははは、いや、テキストファイルを直すんじゃないんだ。そうか、そうだよな、君にはまだ校正のやり方を教えてなかったね。えーとね……ちょっと待ってて」
 Kさんはそう言って自分の席へ戻り、もうもうと立ちこめる煙草の煙の中、赤いペンを持って再びやって来た。
「ゲラにこのペンで直す所を書き込むんだよ。……あ、ちょっと待てよ。君、字は綺麗に書ける……わけないよな。まあ、いいや。例えば」
 Kさんが私の方を一度見た後、机の上に置いた紙に視線を落とす。

校正をする前の文章

「ここに、こういう文章があるよね」
「はぁ」
「この最初の一文を『金田一は軽くコンコンと咳払いをした後に言った。』に変えたい時は、

校正をした後の文章

○一口メモ

訂正を加えた後、(いや、やっぱり訂正しない方がいいな)と思った場合は、訂正した場所に線を引っ張って「イキ(イキママ、ママ、モトイキでも通じる)」と書き込めばよい。訂正は無視され、元の文章がそのまま印刷される。

と書けばいいんだ」
「はぁ、なるほど……」
『軽く咳払い』の所に縦棒二本ぐらい引っ張って、横に『軽くコンコンと咳払いを』と書けばいいだろうと思っていた私はちょっとショックを受けた。どうやら校正というのは我流は通用しないらしい。

悪い校正の仕方

私が思い描いていた校正のイメージ。多分、これでもなんとか通るとは思うが、いきなりやると絶対文句を言われる。

「じゃあ、『軽く』っていうのを消したい場合はどうすればいいんですか?」
「その場合は『軽く』の所に縦棒を引っ張っるか、丸で囲んで、そこからまた線を引っ張って、カタカナで『トル』と書けばいいんだ(※大抵はそのまま文章を詰めるので、取って詰める=トルツメと書くべきなのだが、トルと書いてもいける。削除した部分をそのまま空ける場合はトルアキ)。校正の場合、使う言葉はほとんどカタカナだからね」
「もっと長い訂正の場合は、どこに書いたらいいんですか?」
「基本的に、この部分の訂正だなと他の人がわかればどこでもいいよ。とにかくやめてほしいのは、元の文章に縦棒いっぱい引っ張って、その横に書いたりすることだね。そうすると原稿が汚くなっちゃってわかんなくなるからさ」
「……あの、まだ聞いていいですか?」
「ん?」
「えーと、これを

校正する前の文章

 ↓

校正した後の文章

こうしたいんですけど」
「それだったら、

追い込みという校正の仕方

○一口メモ

好き勝手に書けるアマチュア時代と違って、プロになると字数や行数を厳しく制限されることが多い。「余計な副詞は削った。でも、心理描写や風景描写は削りたくない、だけど行数が多くてはみ出している、どうしよう……」という時にこの手を使って追い込んでいく。

 っていう風にすればいいよ」
「あー、なるほど」
 このような感じで、校正の勉強はしばらく続いた。

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